甲板で一人、ティナはため息をついていた。
「どうしよう…」
―怖い。怖いのだ。
自分を救い出してくれたロック。
自分の始まりをくれたロック。
感謝してもしきれないぐらいなのに、そのロックが
今は怖くてたまらない。
「どうして怖がるの…?」
この一週間、繰り返し自分に問いかけた。
―抱きしめられたから?
―キスされたから?
違う違う違う。そんなの全然怖くない。
確かにあの時はちょっと怖かったけど、でもその後『あげる』と言った
気持ちはウソじゃない。ロックが笑ってくれるなら、もう悲しまないのなら、
私は何だってできると思ったから。
もしあの時のロックに怖いものがあったとすれば、それはむしろ
あの瞳。あの真剣な眼差し。
思い出すだけで震えが止まらなくなる程、怖い。
大事にしようと思っていたのに。
誰より幸せであってほしいと、心から願っていたのに。
逃げ回る自分が情けなくて嫌になる。
『――幸せなことよ…?』
突然誰かの声が聞こえた気がして、驚いて辺りを見回した。
相変わらず人気のない甲板。誰かがいる気配など、全くない。
「…何だったのかしら?」
不思議に思ったけれど、不気味ではなかった。
少しカタリーナの声に似ていた気がする。
ディーンとキスしていたと子供達に騒がれて、真っ赤になりながら、
それでも幸せそうだったカタリーナの姿が目に浮かんだ。
―もしかして、不甲斐ない私を心配してテレパシーを送ってくれたのかしら?
そう思うとなんだか嬉しくなって一人でクスクス笑っていると、後ろから
自分を呼ぶ声が聞こえた。
今一番聞きたくない、でも世界で一番聞きたい、優しい声が。
<あとがき>
短っ!こんな短さは初かもしれない。
短けりゃ短いなりの疑問を持つもんですなあ。嬉しいけど、ちょっと複雑。
二人がラブラブになるまで、もうしばらくお待ち下さい。