~彼女の場合~
そんなの、聞かれたってわからないよ。
だって、不安なんだから。
「ちょっと、色男!」
サラサラの金髪を発見した途端、その尻尾をぐいっと引っ張る。
綺麗な尻尾の持ち主は、一瞬動きを止めて。やがてゆっくりと、優雅な仕草でこっちに振り向いた。嫌味なほどに、魅力的な笑顔で。
「おや、なんだい? 私の可愛い妖精」
予想どおりに歯の浮くセリフを口にして、こっちの右手をすうっと取り、恭しくそっと口付ける。上流階級の人間だからこそ、こんなにも嫌味なく、この紳士的な仕草ができて。
しかもそれが、ひどく似合ってるんだけど。
今はそれさえ、ものすごくしゃくで。
「あんた、また街でキレイなお姉さんたちとイイコトしてたでしょ!」
ズバリと言ってのけると、とたんにその表情が強張る。
そう、これは。肯定の証。
「ふふん、やっぱりねぇ。あんたいつでも、そのワンパターンな行動しか取らないでしょ!いい加減お見通しなんだから」
私が余裕の表情で、見つめてやれば。
「誰がそんなことを…セッツァーか? 全く」
苦虫を噛み潰したような表情、ってこんなときの顔を言うんだろう。
「リルムがカマかけただけ。誰も言ってないよ」
種明かしをしてやれば、「しまった」という狼狽した顔に変わって、口なんて押さえるんだけどね。もう、遅いよ。
「リ、リルム? こ、これには理由が…イヤその」
慌てて取り繕おうとする様が、可愛らしくもあるんだけど。こればっかりは、許せない。
「スケッチ!」
「う、うわぁぁ!」
自分の武器をまともに受けて、あっけなく気絶した人に。そうっと近寄って、顔をじっくり眺めてみた。こんなときでも、つい見つめちゃう、綺麗な顔。
どっから見ても大人の、この余裕綽々の表情、ちょっとキライ。
だから。
「うろたえたり、焦ったりするの見ると、安心するんだ。少しはリルムたちに…リルムに心を開いてくれてるんだって思うから」
人前で感情を顕にするのは、支配者にとってはご法度と同じ。
そんな辛さを抱えた人が、こんなに表情豊かになってるのが嬉しくて。
自分の前で、いろんな顔を見せて欲しくて。
だから、またきっと、苛めちゃうかも。
だって、不安なんだから。
* * *
~彼の場合~
そんなの、決まっているだろう?
だって、独占したいから。
「おんやあ? こんなところで死んでるなんて、ずいぶんと余裕かましてやがるな」
俺の意識を呼び覚ましたのは、皮肉めいた声。
ゆっくりと目を開けると、長い銀髪が見えた。
「愛しの姫君は、とっくにあっち行っちまってんぜ? いつまでも死んでないで、起きてアプローチでもしたらどうだ?」
一言言い残して、さっさと行ってしまったから。
「それができれば苦労しないさ……」
ひとりごちて、苦笑した。
年齢差とか、彼女の出自とか、理由を挙げればきりがない。
俺という人間ではなく、俺が持っている立場のせいで。
実際、王として生きることを自ら選んだ代償として。己の意と違う選択を迫られることも少なからずあったから。どうしても、自分の選択ではなく。『国』を意識した選択が必要とされることもある。
だから、実際には。今の自分の行動が、それらを全く無視した『俺自身』の選択となってしまっていることを、少なからず悟ってはいる。
でも。こればっかりは、どうやら譲れないらしい。
「………厄介なものだ、全く」
自嘲気味に呟いて、ふと視線に気がついた。自分を見つめる、まっすぐな視線。
振り向けば………先ほど俺を豪快にふっ飛ばしてくれた、彼女。
「どうしたかな、レディ?」
微笑んでみれば、真っ赤になった彼女が。
「い、いや、な、何でもないの! ウン! た、ただね、さっきちょーっとばかり技が、ね。その、決まり過ぎちゃったかなー、なんて、少しだけ思ってさ」
取り繕う様が、また愛らしいから。
「ということは、私の身を案じてくれたんだね? 嬉しいよ」
微笑み返すと、また顔の赤みが増した彼女。
「い、いや、そんなんじゃないから! ちょーっとだけ、気になっただけ! じゃ、じゃあね」
慌てて立ち去るのが、たまらなく愛らしかった。
ほら、こうした何気ない会話が。俺の心を、弾ませるから。
きっと俺はまた、彼女を怒らせてしまうのだろうな。
そうすれば、彼女の心に。また俺の存在が、忍び込むから。
だって、独占したいから。
───────
さっそくロクティナ以外カップリング(実は初書き)エドリルをアップしてみました。砕けました。スミマセン。