―全く、世話がやける。
彼女はそう笑うと、フワリとその場から立ち去った。
いや、『立ち去った』という表現はこの場合ふさわしくないだろう。
彼女に実体はもうないのだから。
「ありがとう」を伝えて消えた後も、愛した男のことが気になって
彼女はずっとそこにいた。
体はもうとうになく、魂すら昇天してしまっていたけれど、彼女の"想い"だけが
その場に留まっていたのだ。
「どうか幸せになって」という想いだけが。
自分が死んだとき、愛する男はそれこそ狂ったように泣いた。
それは悲しかったけれど、反面、嬉しくもあった。
"自分は愛されていたんだ"と何より強く感じる事ができたから。
でも、男が泣いて泣いて、その悲しみを怒りへ、その怒りを憎しみへ、変えていくのを
どうする事もできずに見つめているのは辛かった。
どんなに想っていても、どんなに好きでいても、私はもう決して彼に触れることは出来ない。
決して彼の心を慰めることはできない。
その事を、何より痛感させられたから。
―もう、いいんだよ。
どれほど言いたかっただろう。
自分の事で苦しむ姿をこれ以上見たくなかった。
大好きだった笑顔が消え、心が冷えていく彼に何もできない自分が悲しかった。
だって、私は幸せだったのだ。
本当に、心から。
生きていた間は、世界中の誰より愛されたと自信をもっていえる。
だから、
「どうか、幸せになって」
その想いだけはどうしても消えることができないまま、ずっとこの世に
留まっていた。
でも、もう平気。
彼はやっと見つけたのだ。
新たな幸せの場所を。
彼女は少しだけ寂しげな表情を浮かべたが、心はもう決まっていた。
もどかしい二人に、ちょっとしたささいなキッカケだけをプレゼントした。
私はもう何もしてあげられないから、これから幸せになれるかどうかは二人次第。
だけど平気よね?
私がいなくても、もう大丈夫よね?
少しずつ少しずつ、自分が消えていくのが分かった。
でも、それは彼が幸せに近づいた何よりの証拠だから。
彼女の頬に天上の笑みがこぼれる。
―ねえ、ロック。
私、私、あなたに会えて幸せだったよ?
愛してくれて、ありがとう。
幸せをくれて、ありがとう。
この『君への想い』伝わるかしら?
伝わると、いいな…
春風の中、音もなく、綺麗な想いは、優しい風の中に溶けていった――
<あとがき>
というわけで、実は8まであった『君への想い』でした。
1書いて2書いて次に書いたのが8だったので、ここまで辿り着くのが長かった~
という感じです。
ロクティナ派とはいえコーリンゲンのイベントはもう号泣だったので、それなら
いっそのことロクティナ前提で小説にしてしまえというのが今回の発案でした。
レイチェルも大好きです☆
季節で言えば、秋(秋空)⇒宝物(冬)⇒君への想い(春)となっています。
長い長い話をここまで読んでくださって、ほんとーーーーーーに
ありがとうございました!!!