世界で最も北に位置する町、ナルシェ。その宿屋の一室でティナは一人物思いにふけっていた。
今日は本当にいろいろなことがあった。ゾゾで仲間が帝国の研究所から持ってきた父・マディンの魔石によって自分の記憶を取り戻し、自分の正体を知り、そしてすぐにナルシェに向かいこれからの事を決めた。最終的には幻獣に会いに行くという前代未聞の計画が立てられ、みんながティナのことを心配したが、自分が父と母に愛されていったことを知ったティナにもはや迷いはなかった。
ただ、ティナにはひとつ気がかりなことがあった。帝国から帰ってきたロックの様子がいつもと違っていたからだ。なにやら、悲しいような怒っているような複雑な顔をしている。どうしたのだろうと思ったがいくら一人で考えたところでゾゾで眠りについていたティナにわかるわけもなく、エドガーにわけをたずねるとすべてを教えてくれた。コーリゲンのレイチェルのこと、そして魔導研究所での出来事。
ティナにとって、ロックの浮かない顔を見るのはなかなか落ち着かないことだった。出会ってから今まで、彼はティナの前ではどんなときでも微笑んでいたから。
ロックと話がしたい。そう思ったティナはすでに深夜だがロックの部屋を訪ねてみることにした。明日のためにすでに寝ているだろうか?迷惑になるかもしれないと思いながらも扉をノックしてみる。
「ロック?起きてる?」
返事はない。 ティナが扉を静かに開けると、そこにロックの姿はなかった。こんな夜中にどこに言ったのだろう?ティナは宿をでるとロックの姿を探した。
夜のナルシェには、人一人見当たらず、完全な静寂につるまれている。空からふる雪をのぞけば、まるで時間が止まっているようだ。探し人の姿はすぐに見つかった。町の中腹にかかる橋の上でなにやら考え事をしているようだ。ティナは、自分も橋に上がろうと考えたが、あの橋に行くには坑道を通るか、ジュンの家を通るかしないといけない。いったいロックはどうやってあそこに行ったのだろうか?こんな夜中に坑道を通るのは気味がわるいし、ジュンを起こして家の中を通してもらうわけにも行かない。下からロックを呼ぼうかと考えたが、何故だかそれははばかられた。
しょうがないので、結局ティナはジュンの家の脇の崖をよじ登ることにした。雪ですべりそうになりながらもなんとか上りきると、遠くを見つめているロックの名前を呼んだ。
「ロック!」
ティナがロックに走りよるとロックは
「どうしたんだ?ティナ。」
と困惑した表情でたずねた。
「明日は早いんだ。早く寝たほうがいいぞ。」
「ええ、わかってるわ。でもなんだか眠れなくて。」
ロックはその言葉を明日への不安感だと勘違いしたらしい。心配そうな表情でティナに行った。
「やっぱり不安なのか?」
「少しだけ。でも大丈夫。私には心強い仲間がいるしそれに・・・」
「それに?」
「私思い出せたから。お父さんとお母さんが私を望んでこの世に生み出してくれたこと、私を愛してくれていたことを。」
「そうか、そうだな。」
それだけ言うとロックはまた遠くの空を見つめた
「・・・でもね、本当はまだあんまり実感がないの。」
ティナも空を見つめながら言った。
「実感?」
ロックが聞き返す。
「お父さんとお母さんが私を大事に思っていた。それはよくわかるの。でも・・・、でも私にはまだ誰かを愛するということがわからないから・・・。」
「ティナ・・・。」
ロックがティナを見つめるとティナはめったに見せるこのない微笑をロックに向け、それからまた空に目を戻した。
しばらくの沈黙の後、ティナが口を開いた。
「・・・ねえ、ロック?」
「あん?」
「人を愛するってどんな気持ち?」
その唐突な質問にロックは最初なんと答えていいかわからなかった。ダークブルーの髪を持つ少女がロックの脳裏をよぎる。そしてこう答えた。
「・・・俺には愛について語る資格なんかないよ。」
「でも!」
いいかけてティナは言葉を飲み込んだ。
再びしばらくの沈黙が続いたが、やがてティナが言った。
「・・・エドガーから聞いたの。ロックがリターナーに入った理由も、今何を探しているのかも。」
「そっか、聞いちゃったのか。」
「ごめんなさい。」
「謝ることなんかないさ。みんな本当のことなんだから。」
そういってロックは自嘲的に笑った。
「狂っていると思うかい?」
今度はロックたずねた。
「狂っている?ロックが?」
「みんなに言われたよ。死んだ人を生き返らせようとするなんて気 が狂ってるってね。」
「私にはわからないわ。さっきいったように私は誰かを愛したことがないから。でも、死んだ人を蘇らせ・・・」
ティナの言葉をさえぎるようにロックが言った。
「本当はさ、生き返る保証なんかどこにもないんだ。」
「え?」
「魂を呼び戻す秘法、それがあるのは本当らしい。でも、その秘法で人の命が蘇るかなんて全くわからないんだ・・・。」
「それでも・・・、それでも探すの?」
「ああ。」
「それだけレイチェルさんを愛していたのね、ロックは。」
ロックはしばらく黙っていたがやがてこういった。
「愛していた、そう、確かに愛していた。でも、それだけじゃない。誤りたいんだよ、レイチェルに。」
「謝る?何を?」
「守ってやれなかったことを。」
「守ってあげられなかった・・・。でも・・・、でもレイチェルさんはロックのことを忘れてしまっていたんでしょ?そしてロックはそのレイチェルさんのためを思って去っていった。それでも・・・」
「それでも俺は彼女をを守りたかったんだ。愛していたから。」
「愛していたから守りたかった・・・。」
ティナはロックの言葉を反芻した。
「ねえロック?」
「何?」
「ロックは私に初めってあったときも守るっていってくれた。」
「ああ。」
「でも、ロックはあの時私を愛していたわけじゃないでしょ?」
「ああ。」
「じゃあなんで・・・?」
わけをたずねなくても、ティナにはなんとなくわかっていた。それでも、聞かずに入られなかった。
「記憶喪失になっていたティナとレイチェルが重なって見えたんだよ。たった一人の女の子も守れない自分がいやだった。だから・・・、だからティナを守りたいと思った。もうあんつらい思いをするのは二度とごめんだったから。」
「セリスのときも?」
「・・・ああ。でもだんだん気持ちが変わってきたんだ。最初は自分の贖罪だったかもしれない。だけど、一緒に旅するうちにティナっていう一人の女の子を守らなくちゃいけないと思うようになったんだ。でも・・・。」
「でも?」
「誰一人守ることができなかった。ティナの暴走を止めることもできなかったし、セリスのときなんか守るとかそんなことじゃなくて、仲間だと信じてやることすらできなかった・・・。」
「ロック・・・。」
「結局、俺はあの時と何も変わっていないんだ。口だけは大きいことを言って、結局約束を守れなくて・・・。」
「違うわ!」
ティナが急に強い口調で言った。
「ティナ?」
「ロックは、ロックはそんな人じゃない!だって、だってゾゾでロックはで私の手を握って言ってくれたじゃない!安心してまってろって!必ず迎えに来るって!」
「ティナ・・・。」
「セリスだってわかってるわ!だから、だから今度はセリスがロックを助けたい、そう思ったのよ!誰もロックを責めたりはしてないわ!」
「レイチェルさんだって、きっとそうだと思う・・・。」
ロックはなんと答えたらいいかわからず、ただティナの言うことに耳を傾けていた。
「私、ロックと初めて会ったとき、あの時あそこに来てくれたのがロックでよかったと思う。ロックの言った守るっていう言葉が本当は私に向けての言葉じゃなかったとしても、とても嬉しかった。もちろんあの時の私はそんなことわからなかったけど・・・。あそこに来てくれたのがロック以外の人だったら、きっと今の私はいなかった。なんていったらいいかわからないけどそんな気がするの。」
「ティナ・・・。」
ロックはそういうと表情を隠すようにティナから顔を背けた。
「・・・もう遅い。そろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」
ロックがいった。
「ええ。わかってるわ。おやすみなさい。」
「ああ。」
そしてティナは宿に戻ろうとあるいていったが突然振り返ってこういった。
「ロック!」
「私、愛するってことが少しだけどわかった気がする!誰かを、自分の大切な誰かを守りたいっていう気持ちがきっと愛するって言う気持ちに変わっていくのよね!」
「私はロックやみんなを守りたい!守られるだけじゃなくて守りたい!この力で、お父さんとお母さんが私にくれた力で!」
そこまでいうとティナは恥ずかしそうな表情を浮かべたがすぐに
「おやすみなさい!」
そういって雪の中に消えていった。
それを見送ったロックは小さくつぶやいた
「おやすみ、ティナ・・・。」
初めまして、あるふぁです。初めて小説かいてみましたけどいやー小説書くのって難しいんですね!書いてみてはじめてわかりました。ただシーン的には結構きにいってるんで誰か上手な人かきなおしてくれたらうれしいです。