「…貴方が私のお腹の中にいると分かったからよ。」
「…えっ…?」
驚いてしまった。原因は私だったってこと?
「落ち着いて、話せば分かるから。」
混乱しきった私にママはそう言ってくれた。
そして、ゆっくりと話した。
「モブリスの村には私と子供達の他にカタリーナとディーンという若い夫婦がいたの。
だけど私よりも若い位の年だったから、子供がいるのに夫婦喧嘩が絶えなかったのよ。」
「へぇ…大変。」
家のパパとママを見る限り、そんなに喧嘩をすることは無い。
確かにすることはするけど、大抵はお互いに謝って収まっていた。
「家が近かったからカタリーナなんて週に一回は逃げ込んできたわ。
『もう、あの人とは暮らせない!』って。
結局私が説得して大体は収まっていたのだけれど…」
そんな家族もいるのか…そう思ってしまう。
パパなんて呆れるほどの愛妻家だから,ママに家を出て行かれることなんて見たことも無いし、考えたくも無い。
「私はその頃パパと一緒に住んでいたの。
だからパパも彼らのことはよく知っているはずよ。」
「…えっ?どうしてパパが一緒に?」
「今からちょうど8年くらい前のことかしら…
パパは今と同じようにトレジャーハンティングをしていたの。
けど不幸にも、事故に襲われて…」
そんな災難にあったのによくトレジャーハンティングやめないわねパパ…!
「そして倒れているところを見つけたから、すぐに家に連れて帰ったわ。
そうしたら2日後にようやく目が覚めて…
その後は散在していたパパもとりあえずモブリスの村に住むことになったの。
勿論その間もトレジャーハンティングはやめなかったけど…」
う~ん、パパも困った大人なのね。
さっきまで「大人っぽいな~」と思ってたんだけど…
「それからかしら。同居してから2年後位にパパから告白されたの。」
そうか、やっぱりパパからプロポーズしたのね。
「けど私には子供たちもいたし、人騒がせな夫婦もいたし…
どんなに真剣に言われても、どうしても受け止めることが出来なかったの。」
ママってば可愛い顔して罪深い人だなぁ。
そういう時は何もかも捨ててパパについて行っちゃえばいいのに…
「けど結局、告白されてからは変わったわ。
パパも、仲間を見る目から恋人を見るような目をするようになったの。
最初は私もどうすればいいのか分からなかった。
子供たちから受ける愛以外の愛なんて今までほとんど感じたことが無かったから…」
「けど結局結婚しちゃったわけね。」
「ええ…。
パパに告白されてから少しずつ自分も変わった。
何か、母の愛情以外の何かを感じるようになって…
そうして私もパパのことが気になっていた頃、貴方がお腹の中にいると分かって…」
へぇ、何か私って「ついで」っぽくない?
それは置いておくとして…
「それでどうして村を出て行ってしまったの?」
「最初は私もこのままモブリスで暮らすんだと思ってた。
けどその頃になっても喧嘩の後に泣いたカタリーナが家に来ていたの。
お腹の中の貴方に気を遣う前に、別の家の奥さんを気遣わなければならなかったの。
そんなとき、安定期に入った私に見せてくれたのがあの山の景色よ。」
え?あそこってそんなに奥深いラブスポットだったの?
もっと見ときゃあ良かった…
「そして言われたの。『この近くで一緒に住もう』って。
勿論私は断った。」
そりゃそうだよね。
ママがいなかったらカタリーナさんとやらはどうすればいいのか。
「けどパパは言ったの。『お前は本当はどうしたい?』って。
そして人を気遣う前に自分の気持ちに素直になれって、言われた。
そしてまた、絶対に後悔はさせないから自分と産まれてくる貴方と3人でここで暮らしてくれと…」
「それでパパについて行っちゃったのね。」
「ええ…私は涙を流して首を縦に振ったわ。
勿論、子供たちと若夫婦を捨ててしまうんだという後ろめたさもあった。
けど結局は…」
うわぁ、意外にパパとママの赤い糸って強かったのね。
もうママの顔なんて恥ずかしさで真っ赤になってるし。
「…ねぇ、ママ。」「?なぁに?」
「今度モブリスの村に行っていい?」
「…ええ、勿論よ。」
「それとセリスさんの娘さんにも会いたい。」
「…え?どうしてセリスのことを…?」
………あ。マズイ…。
「…さっきの話聞いてたのね…。」ママが呆れたように言う。
「ごめんなさい…。」ここは素直に謝っとこう。
「別にいいわよ。何か隠し事をしていたわけでは無いし…」
ママは私の頬を優しく撫でると野菜を洗い始めた。
「その代わりと言ってはいけないかもしれないけど、ご飯の支度するの、手伝ってね。」
「はーーーい!」
私は元気に返事した。
ーーーーー
夜。
私は今コップを壁に当てて聞き耳を立てている。
何しているのかって?勿論パパとママの会話を盗み聞きしてるの。
「お疲れ様、今日は大変だったわね。」
コップに耳を当てると、かすかに聞こえてくるママの声。
「ああ。なんか変なこと聞いてきてね、あいつが。」
「変なこと?」
ああ、これはきっとさっきママに聞いたことだよね。
そう思っていたら…
「赤ちゃんはどこからくるのかって、ね。」
「あらあら…。」
…。
「そういえばあの子、さっき私がモブリスの村を去ったことについて聞いてたけど…」
「ああ、俺が分からないって言ったから…」
「貴方が一番よく知っている癖に。」
「けどそのお陰で俺はあいつに赤ん坊が何処から来るのか言わなくて済んだ訳だし…。」
ママが笑いながら聞いていた。
そうだ、パパが来てくれって言ったからママが来たのなら、パパがその理由を知らない訳が無い。
「…よくも娘を騙したわね、パパ…!」
明日の朝になったら覚えてなさいよ…
私はコップを机の上に置くと、ベットの毛布にくるまった。(終)
(あとがき)
…長い、長すぎる。(自分的に)
けどこれでこの話はひとまず終わりです。
長かったような短かったような…
結局「ロックの嘘にまんまと引っかかった娘さん」みたいな感じで落ち着いて良かった(?)です。
多分次はセリスの番外編を書くと思います。
勿論相手はロックじゃ無いので…(当たり前だ)
そちらも読んでくださると嬉しいです。