もうすぐ。
鐘が、鳴る。
*
ロックとの再会。
そして、彼の過去との決別。
ついて行ったのは、セリスで。
それで、良かったと思う。
私には、できないから。
これから、彼が彼女の事を思い出す度。
彼の隣に立って、その涙を拭うことも。
その憂いを、黙って聴くことも。
震える肩に手を置いて、泣き顔を見ないように努めることも。
……時間が、もう、ないから。
穏やかな物越しの老魔道師が、悲しい瞳で告げた言葉。
私の、予測される未来。
「あくまでもこれは、わしの予測にしか過ぎないんじゃが……一応、お前さんには知らせておく義務があると思ったんじゃ」
人として、長く世を生きてきた老人は、そっと目を伏せて。
厳しくも温かいまなざしで、私を見詰めた。
「すまんな。予測が当たっていない事を祈るしか、わしにはできん……」
「………………いいえ、ありがとう」
私は素直に、笑えたと思う。
「教えてくれて、本当に感謝しています」
「ティナ……」
声を詰まらせてしまった老人に向かって、私は静かに首を振った。
「本当に、ありがとう」
重ねて告げたのは、ただ、感謝の意。
最後の時は、迫っている。
飛空艇の甲板の上、私は目を閉じて、両手をぎゅっと握り締めた。
今はまだ、確かに私はここにいて、戦えるだけの肉体を持っている。
でも。
戦いが終わったとき、恐らく、全ては消滅する。
それは、知識豊富な老魔道師だからこその予測。
……そして。
知識などなくとも、この全身で感じ取ることができる、予感。
(『私』は、確かに……消える……)
この肉体も。
この魂も。
この……想いも。
全て、無に。
身震いした夜もあった。
唇を噛み締めて、嗚咽を堪えた夜もあった。
だけど、もう、怖くない。
──世界を消されるぐらいなら、私が消えた方がいい。
目を開けた。
視界に広がったのは、黄昏たままの空と世界。
そして。
「ティナ!」
あの人の声。
チョコボに跨って、飛空艇へと真っ直ぐに走ってくる姿。
視界が、滲む。
私は声を出さず、手を振った。
今は、嗚咽が漏れてしまいそうだったから。
*
最期の、とき。
恐らくは、感覚すらも消滅した『私』には。
鐘の音は、届くのだろうか。
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原稿執筆中にもかかわらず、思いついた暗い文章です。
救いは…な、ない(汗)
うっかり読んでしまわれた皆様は、他の方々の素敵文章で癒されてくださいますように。
私も余裕ができたら拝読したいです。