『かつてあれほど愛していた彼が目の前で他の女のものになったあの日。
まさかその思いが別の男に移るなんて思ってもいなかった。
悲しみが、苦しみが、全て無くなるなんて、信じられなかった。
まるで枯れた大地で凛と咲き誇る一輪の薔薇を見つけたみたい…』
さっきお袋の部屋の机上にあった日記を見たら、昨日付けのページにそう書いてあった。
俺はベットの隣に飾ってある極小さめの絵画を外しながらそれを思い出した。
「よくあんな恥ずかしいこと書いた日記を机の上に置いておけるよなぁ…。」
それとも近くの宝石屋で予約済みのジュエリーを取りにいくという短い時間の間に誰かが部屋に入るなんて思ってもいなかったのか。
絵画を外せば無論、あるのは白い壁だ。
けどこの壁は他の壁とは違う、これは…
「ふふ~ん、まさかお袋もこんなところに小さい穴を開けてプライベートな一時を垣間見られてるなんて思ってもいないだろうけど…」
そう、この壁に空いている極小さな穴からお袋の私生活は丸見えなのだ。
早速その極小さな穴から母親の部屋を覗き込んだ。
「…そろそろ彼が帰ってくるころかしら…?」
彼って言うのは無論あのクソ親父のことだろう。
今奴は仕事中、まぁ実際はただのギャンブルな訳だが…。
最初は俺もそこまでついて行く予定だったけど、せっかくお袋が留守にすることの多い今日、俺は少しの間だけお袋の部屋に忍び込むことを決めていたのだ。
親父は「しょうがないガキだな」と笑って許可してくれた。
「…早くお風呂に入んなきゃ。」
そういうとお袋は部屋の中にあるバスルームへと姿を消した。
…いつもと何か様子が違う…。
親父がお袋の部屋へ(大人の遊び目的で)行くといつも「馬鹿!」と怒鳴られた後、追い出されるのに。
今日は相当機嫌がいいと見た。
「良かったな、クソ親父。」
俺はそう呟きながらお袋が風呂から出てくるのを待っていた。
しばらくするとタオルだけ体に巻きつけたお袋の姿が見えた。
普段だったらそのまま寝着を着て日記を書いて寝る、筈なのだが…
「…さすがにこの歳であの格好は似合わないかしら…」
そういいながらお袋はクローゼットの中にあった白いドレスを取り出した。
「…あれは……」
今日オペラ座で観たマリアのとほとんど同じドレスだった。
「いつオーダーしたんだよ、あんなの…」
それとも親父の趣味に付き合わされて買ったものなのか。
「でも、これ以外あの人が喜びそうな格好なんて思いつかないし…」
まぁ、確かにね。
しかもあんた、オペラ座で今日観てきたマリアよりは綺麗だよ。
そんなことを考えている間にお袋は下着とコルセットを着、それを着た。
「うわぁ…。」思わず俺は呟いてしまった。
本当にお世辞ではなく、お袋は綺麗だった。
あれなら間違いなく親父も大喜びだ。
お袋は髪を梳かし、青いリボンでそれを束ねた。
そして首に今日取りに行ったと思われるネックレスを付けた。
もう、今日観てきたマリアなんて比じゃないくらいだ。
お袋は、ドレッサーに見える自分の姿をじっと見ていた。
「入るぞ。」
親父の声が(お袋の部屋の)ドア越しに聞こえた。
「…ええ。」
お袋がそう言うと親父は荒々しくドアを開けた。そして…
「………。」
予想通りお袋の姿を見て急に黙ってしまった。
「…どう?やっぱり歳に合わなくて似合わない?」
長いような短いような沈黙の後、お袋が聞いた。
「…いいや。」
親父は首を振って否定した、そして…
「どうした?今日はやけに機嫌がいいらしいな。」
お袋の髪を指で弄びながら笑みを浮かべて言った。
「今日は結構ハードな一日だっただろうから、御褒美にと思って…。」
「あのガキに一日付き合う程度でここまでして貰えるとはな。」
まぁ、買い物行ってオペラ観ただけだからね。
「お前こそ今日は色々な意味で大変な一日だったんじゃないか?」
「いいえ、もうあの頃の私とは違うもの。」
あの頃っていつの事だよ…大人の話はやっぱりよくわかんねぇ。
「ところで今日は…んっ…。」
お袋の言葉は途中で遮られた。
親父がお袋の唇に自分の唇を重ねたのだ。
苦しそうにするお袋の様子を見た親父が離してやるとお袋は静かに言った。
「…あのね。今日ティナの所に行ったらね、妊娠してたの。」
「それがどうした?」
「二人目の子供がお腹の中にいるって、凄く幸せそうだったわ。」
「…つまり。」親父は薄々と察したらしい。
「もう一人、ガキが欲しい、ということか。」
お袋は微笑んで静かに頷いた。
「よし、分かった…。」
そういうと親父は部屋の明かりを消してお袋をベットに押し付けた。
ここからは大人の世界だから子供が首を突っ込むべきでは無いか。
そう思って壁の穴から目を離した、が…
「ん…?」親父の声。
「なぁに?」お袋が不思議そうに訊ねる。
「おかしいな、暗いはずの部屋に光が差し込むなんて。」
何のことだ?俺は首をかしげた。
…がしかし、その理由はすぐに分かった。
「まさかあいつ、あそこからずっと見てたんじゃ…」
そう、穴から顔を離した際、暗いお袋の部屋の中に俺の部屋の明かりが差し込んだのだ。
「…何ですって!?」お袋の怒鳴り声。
…まずい、殺される。
「壁に穴を開けて私の部屋をずっと見てたなんて…!
起きてるんでしょ?開けなさい!!」
さっきの可愛かったお袋は何処へ行ってしまったのか。
ベットから起き上がって隣にあった俺の部屋のドアを乱暴に叩く母親。
隠れる場所を探していると部屋の向こうから親父の声がした。
ガキは大変だなぁ、と。
そして「クローゼットの中に隠れれば?」と言ってくれた。
ーありがとよ、クソ親父。
そう言うと俺は言われたとおりそこに隠れた。
…俺の部屋に入ってきたお袋にそのことを教えるのだとは知らずに。
(あとがき)
セッツァー&セリスファンの方………、ごめんなさいっ!!
何でしょうね、この駄作は。
無駄に長いしキャラクターのイメージ崩壊は起こしてるし…。
そして何より文章はおかしいし。
けど書いててとても楽しかったです。
文章を打ち込む度に顔がにやけました。
セツセリもロクティナと同じくらい、大好きなカップルでしたので…
ロックに失恋した後、セッツァーに惚れたという設定を最初に言っていなかったので結構分かりにくい文章になっちゃってましたね…。
(反省、そしてごめんなさい)
ちなみに「パパザウルス本編」でも話しましたが、ナレーターは女の子です。
母親似の容姿で、父親似の性格だという設定です。
喜んで下さった方(いる訳ないだろうお前)がいらっしゃったら泣いて喜びます。