村から30分位歩いたところにある小さくて暗い洞窟の中。
私はろうそくに火をつけて子供達と歩いていた。
洞窟内は本当に何も見えない位に暗いし、おまけに生暖かい風まで吹いてくる。
ー不意に、彼との始めての出会いを思い出した。
ナルシェの洞窟の中、敵兵に追われた私をモーグリ達と一緒に必死で守ってくれた彼。
記憶がないという私に絶対に守ると言ってくれた彼。
思い出してはいけないのかもしれない。
けど、溢れこぼれてくる思い出の数々を止める事など出来なかった。
彼のことになると、それはなおさらの事だったのかもしれない。
「母さん、ディーンがね、この洞窟の奥に宝があるっていうんだよ。
本当なのかな?」
まだまだ幼くて可愛い息子が尋ねてくる。
「分からないわ。もっと探して見ないと…」
そう言って私は子供達と一緒に奥の方へ歩いていた。
しかし…
「痛いッ!!」
最近反抗期にさしかかったためか、反抗することが多くなった娘が叫んだ。
「どうしたの?!まぁ、転んじゃったの?」
娘のまだ小さな短い足の膝から血が滲んでいた。
「手当てしなきゃ…みんな、先行ってて!
私は後で行くから!!」
そうして子供達にろうそくを預け、先に行かせた私は娘の手当てをしてやった。
「…ありがとう、母さん。」
素直にお礼を言ってくれる娘を見て、嬉しさが込み上げた。
それが、自分から産まれた訳ではないのに慕ってくれる子供からのものなら、それはなおのことだった。
ー本当の娘じゃない子に言われてもこれだけ嬉しいのなら、自分で産んだ子に言われたときはどれだけ嬉しいのかしら…
「さぁ、行こう。」「…分かってるわよ。」
「痛くない?」「…大丈夫だってば!」
ませた娘でも、やはり私の愛しい子だ。
自分で産んだとか産んでないとかは関係ない。
そう思い直すと、不機嫌な娘と一緒に子供達の後をついていった。
すると…
「母さん!大変ッ!!人が倒れてるよ!!」
「大変だよ!!意識が無いの!」「早く来て!!」
子供達の大きな声。
それでも怪我をした娘が心配な私は歩いて呼び声のするほうに向かう。
「早く行ってよ。私は一人で平気なんだから、ほっといてよ!」
娘の苛立った顔。
確かにこの人があまり来ることの無い洞窟の中で倒れているということは、相当長い間そのまま倒れていたのかもしれない。
このままでは命を落としてしまうかも…
「分かったわ、けど痛かったらすぐ呼んで、いいわね?」
「分かってるからさっさと行きなさいよ、もうっ!」
頷くと、私は子供達の所へ駆けつけた。
子供達は倒れた人を囲むようにして立っている。
「大丈夫!?……っ。」
倒れた人を膝の上に抱き上げ、顔を見たときに私ははっとした。
そう、それはさっきまで私の記憶の中にいた人。
愛しかった、そして今でもその思いを捨てきれない人。
「ロッ…ク…」
彼に意識は無かった。
そして、息をしているようにも見えなかった。
「ロックっ!ロック!」
呼び続ける。愛しい人の名を。けど返事は、無い。
「ねぇ、どうするの?母さん。」
「…村まで運んであげましょう。こんな所にいては本当に死んでしまうから。」
そう言うと私は、子供達に手伝って貰いながら、彼を村まで連れて行った。
引き締まった体に、細いけどしっかりした足。
昔と何も変わっていない、彼の容姿。
肩を抱きながら彼を運ぶのはさすがにきつかった。
そしてそれが、自分の思い人なのだと思うと、胸の辺りがコルセット以外の何かで締め付けられている様で、熱かった。
歩くたびに彼の髪が頬にかかると、何故かどきどきした。
このまま私も倒れてしまいたいと思う程に。
ーオブリヴィオン。
何度合言葉を心に言い聞かせても、この狂った想いを止める事は出来なかった。
ー私には許されないのに。恋なんてしてはいけないのに。
自分を責めもした。けどそれも、無駄に終わった。
どんなに子供達のことを愛していても、やはり私はロックのことが今でも忘れられないのだ。
「母さーん。これなんだろう?」
「え?どうしたの?…」
私を呼ぶ息子の手を見てみるとそこには一枚のカードがあった。
「…それは。」
そこにはただ一言、こう書いてあった。
~~~Happy Birthday, My kitten.~~~
ーああっ!
私ははっとした。
そうだ、今日は私の生まれた日だったのだ。
母親になってから誕生日を祝って貰えたことなんて一度も無かった。
村にいる誰も、私の生まれた日を知らなかったからだ。
「ロックのかしら?」
「ううん。分かんない」息子は無邪気な顔で答えてくれた。
「けど子猫って書いてあるからきっと猫を飼っている人が書いたんじゃない?」
「…そうね。きっと…そうよね。」
息子の言うとおりだ。
人の誕生日なのに猫という名が出てくる訳無い。
なのに…
この胸の熱い思いは何?
受け取ったカードから彼の温もりを感じてしまうのは、何故?
私は顔を赤くして意識の無いままの彼を村まで連れて行った。
(あとがき)
変で長い文章を投稿してしまってごめんなさいっ!!
今日がティナの誕生日だと思い出して急遽、内容を変更したので滅茶苦茶ですね…(反省)
こんな小説ですが実はまだまだ続きます。
そしてそんなことより…(おい)
『誕生日おめでとう!!ティナ!!』