ベットで眠ったままのロックの横顔を見ていると、どうしても捨てきれない過去の思い出が蘇ってしまう。
時間があればこの部屋の中でロックを看病している、そんな日が二日程続いていた。
私はあのカードを懐に入れて眠ったままの彼の頬をそっと触った。
「…ロック。」
そう呟きながら。
「…ん。」いきなり彼の睫毛が動いた。
「…ロック?!」そしてがばっ、と起き上がる彼。
「ん、俺は…?」素っ頓狂な声を上げる彼。
そして私の愛しい、彼。
「ロック…起きたのね…!」「…ティナ!?」
「二日前、洞窟の奥で倒れてたのよ。」
私の話を聞いてただ呆然とする彼。
しかし長いような短いような沈黙の後、彼は口を開いた。
「…お前がここまで連れてきてくれたのか?」
こくり、と頷くと彼は情けなさそうな顔をして言った。
「…ありがとな。すまねぇな、迷惑かけて。」
「何言ってるの。今はまだ体が回復しきってないからもうちょっと休んでいったら?」
私は今にも狂ってしまいそうな胸の想いを隠しながら言った。
どうしよう…、これ以上彼と話すと自分が自分で無くなってしまいそう。
けど…
「ロック?寝起きの時で悪いけど一つ聞いていい?」
「ん?何だい?」
どうしても気になっていたことを聞くために私は胸元からアレを取り出した。
「…それは。」「誕生日カードだけど、もしかして貴方が書いてくれたの?」
「…ああ。けど何故、そ…うわっ!!」
彼は、私のいきなりの行動に大声を挙げてしまった。
私も、自分が何をしているのか分からなかった。
心にある理性が止めても、問題の体が勝手に動いてしまった。
「…ありがとう…。」
私は彼の胸の中に顔を埋めたままそう言った。
「…。」
驚いたままの彼は何も言わず沈黙していた。そして、私も…。
しかし少しすると私の背中に両手を回して抱きしめてくれた。
私も彼の大きな体に自分の手を巻きつけた。
そうしていて、どれ位の時間が経っただろう。
最初に口を開いたのは、彼だった。
「…お前の顔を見たい。見せてくれないか?」
「…嫌。」「頼むから。」
今の私の顔はさすがに見せられるものでは無かった。
いきなり抱きついて彼の胸元に顔を埋めたなんて、恥ずかしくてたまらない。
私は彼の懐から顔を離さなかった。
しかし…
「きゃあっ!」
悲鳴を上げて顔を見せてしまった。
彼の手が私のうなじから背中までをそーっと指でなぞったのだ。
顔を隠そうとする私の両手を押さえると、彼は私の顔をまじまじと見た。
私は恥ずかしさのあまり、目を閉じてしまった。
「…前会った時より可愛くなったじゃないか。」
言われた瞬間、私は目を開けて顔を真っ赤にした。
そんなことお構いなしに彼は私の耳元に顔を寄せて、ささやいた。
「…ありがとう、助けてくれて。」
ううん、それは私の台詞。
「ありがとう…」
私も続けてそう言った。
「…また逢えて嬉しいわ、ありがとう。」
「俺もだ…。」
そう言うと、今度は彼の方から私に抱きついた。
抱きつかれたまま、私は動かなかった。
ただ彼の背中に手を回してじっとしていた。
そして、彼もまた私に抱きついたまま離れなかった。
…私達はただお互いのぬくもりだけを感じていた。
(あとがき)
という訳で…おはようロック。(?)
恥ずかしい文章が続いちゃって御免なさい…。
曲「オブリヴィオン」を聞きながら書いたのですが、今回はテーマである「忘却」という文字が無いですね、全然。
この後、二人をどんな風に持っていくか。
それが次回の課題になりそうです…。
こんな作品ですが見ていただけるととても嬉しいです。