あれから2年もの月日が経った。
私は散在をしていたロックにとりあえずここに住んでもらうことにしていた。
最初子供達は新しい兄が出来たと喜ぶ子と、まだ誰か分からない人と村で一緒に住むのだと不安がる子とがいた。
しかし時が経てば変わるもので、今では子供達のいいお兄さんになっている。
「おにいちゃん!高い高いして~!」
この村で唯一父母をもつ子がロックにおねだりをしている。
両手を挙げて待っている姿はとても愛らしい。
「ああ、いいよ。ほ~ら。」「わーい!!」
あの姿を見ると、あの子の本当の父親がディーンなのだということを忘れてしまう。
あの子はロックと私をまるで本当の父と母であるかのように慕っていた。
私にとっては嬉しいことだけど、本当の父母にあたるディーンとカタリーナには申し訳なく思う。
ところで…あの子は家でどうしているのかしら。
他の子供達は「お父さんとお母さんがいるくせに僕らの母さんまで横取りするな!」というけど、あの子は本当の父母がいる家の中で、一体どうしているのだろう?
「お兄ちゃん、もういいよ~降ろして~。」
「ああ。」
明るく言うと、彼は小さな妹をゆっくりと降ろしてあげた。
「お兄ちゃん大好き!!」
そういうと彼女はロックに抱きついた。
「こんなことしてるとこ見たら、お父さんが悲しむぞ?」
けどそんな言葉もお構いなしに彼女は彼に抱きつく。
ロックもしょうがないな、とそっと妹の背中に手を回す。
もう父親と可愛い愛娘にしか見えなかった。
「…ママにもこういうことしてあげてるの?」
不意に、思ってもいなかったことをあの子は平気で口にした。
「…へ?」彼も驚いていた。
気持ちは物凄く分かる。
「君の母さんには旦那さんがいるだろう?そんなことするわけ無いじゃないか。」
「だ~か~ら!ティナお母さんとだってばぁ!!」
え…私と?
その瞬間、2年前のことを思い出してしまった。
彼に抱きついたあの日、そして彼に抱きしめられたあの日を。
思わず私の顔は赤くなった。
そして、彼の顔も…
「ねぇ、お兄ちゃんティナママのことが好きなんでしょう?
知ってるんだから!お兄ちゃんがママに抱きついたってこと。」
少女はやはりまだ無邪気な子供だからであろうか、遠慮なく大きな声で話す。
「…。」
もう何も言い返せなくなってしまった彼。
あの日のことはさすがに言い訳できない。
二人きりだと思っていたあの部屋に、この子が忍び込んでいたのだと知ったのは極最近のことだ。
「…トレジャーハントにいかなくっちゃ。」
何とかごまかそうとする彼。
そういうとすっと立ち上がって走っていってしまった。
「きぃ~っ!よくも逃げたわねっ!!」
後で聞こえる娘の声。
「知ってるんだから!いつもママのこと考えていて夜も眠れないってことを!!」
しかしそれはもはや負け犬の遠吠えにしか値しなかった。
私はもう、顔を赤らめて黙っていることしか出来なかった。
それでも夜はいつもの様に訪れた。
子供達全員が寝静まったのを確認すると、私も自分の部屋に戻ることにした。
だがしかし、ロックはまだ帰ってきそうにない。
とりあえず帰ってくるまで待ってみることにした。
薄暗い部屋の中、古いレコードを回すと私はあの曲を聴いた。
ーオブリヴィオン。
私にとってそれしかなかった。
何もかもを忘れ去る、そして自分の人生を他人の幸せに捧ぐ。
それが新しく生まれ変わった世界で私に与えられた使命なのだと、ずっと信じていた。
それなのに…今はどうだろう?
昔の恋心を蘇らせてしまった自分。
この曲の様に、静かに忘れ去ってしまえばよかったものを…。
するといきなり曲のテンポが激しくなった。
まるで静かに冬を耐え忍ぶ花達が春を向かえ、一斉に咲き乱れた様に。
そうかと思えば、また静かな音程に戻ってしまう。
「私の人生もこんなものね…
一時期は激しく燃えるけど、やはりこういう穏やかに流れる日々にいずれは戻ってしまうのよね…」
そう言いながら私は胸を締め付けるコルセットを外し、髪を束ねていたリボンを解いた。
寝間着を着ると私はベットの中に入った。
ロックはやはりトレジャーハントに行ったのだろう。
そんなときは大抵朝方まで帰ってこないのを私はよく知っている。
だからそのまま寝てしまおうと思っていた。
しかし…
コンコン、とドアをノックする音。
びっくりした私はがばっ、と起きると急いでドアの方へ駆けつけた。
「誰?」
そう言うと私は自室のドアを開けた。
(あとがき)
滅茶苦茶中途半端な終わり方ですね…
カタリーナとディーンの子供って男の子と女の子のどっちなんでしょうか?
分からなかったのでこの小説では女の子にしちゃいました。
何か、そっちの方が書き易かったので…
ドアの向こうには誰がいるんでしょうか?
アイツしかいないじゃないというあの人です。(早々ネタバレ)