「はぁ…」
私はため息をつきながら台所へ向かった。
ロックとどう向き合えば良いのか分からない。
彼はもう昨日の夜の前までの彼では無い。
それでも…昨日のロックの真剣な眼差しを思い出すと胸の辺りが締め付けられる感じがした。
「よぉ、ティナ。」
会いたくない、というよりどんな顔で会えばいいのか分からない彼はいつも通り台所で下拵えをしていた。
「あっ、お…おはよう!ロック!!」
私はそういうのが精一杯だった。
いつも通りの挨拶をしたくても、昨日の今日ではそれも難しい。
しかし彼はいつも通りの態度で朝食作りを手伝ってくれた。
昨夜の彼とは違う、いつもの彼…
「ねぇ、ロック。」「ん?何だい?」
そんな彼に私は安心した。
「いつもありがとう。」
私は彼に微笑んでそう言った。
「別にいいさ…子沢山だとこういうこととか一人じゃ大変だろ?
それに俺もキノコなんか飯に入れられたら朝から飯食べられなくなっちまうし…」
「何子供みたいなこと言ってるの!
大人が好き嫌いしてたら子供達に示しがつかないでしょう!?」
いつものような会話。
さっきまでの私の不安は完全に吹き飛んだ。
…そんな幸せないつも通りの日々が続いていたある日のこと。
「母さん!母さん!大変だよ!!」
いつもとは違うひっこみじあんな息子の声。
「みんながね…いなくなっちゃったの!!」「えっ…?」
一体、どうして…?
私はロックと顔を見合わせる。
「とにかく…村中を探しましょう!!」
そう言うと私とロックは村中を回って子供たちを探した。
胸に不安をよぎらせながら…
「誰かいたか!?」「いいえ。こっちにも誰もいないわ…!」
「いきなりどうしていなくなっちまったんだよ…。」
いつもとは違う私達の会話。
「はっ…まさか…!」
するといきなりロックが不吉な事を口にした。
「”子殺しのジル”の仕業じゃ…」
子殺しのジル、とは今世界中で子供を攫っては血祭りにあげていると言われている大悪党だった。
彼の存在が明るみになってから、行方不明になった子供の数は数知れず。
まさかこんなちっぽけな村の存在に気づいてはいまいと思っていたけど…
「まさか、ね?嘘でしょう!?」
「けどそれ以外にあいつらがいなくなる理由があるか?
見苦しい位にお前になついてたあいつらが。」
「…。」確かに…そうだ。
それについ一ヶ月前はゾゾの町にも出没した。
3人の子供たちが攫われ、惨殺された後、町の広場に飾られていたという。
「それに奴は一度行ったところより、まだ行ったことがないところの子供を殺すのが好きらしい。
この前も…」
「もうやめて!!」
耐え切れなくなって私は叫んだ。
あの無邪気な子供たちには何の罪も無い。
罪があると言えば、母親になりきれずに少女のように年上の男に恋をしてしまっている私だ…!
「…早く、行かなきゃ!!」
私は行き先も分からずに準備をしようとした。
「待て!あいつは町にアジトをこっそりと作っていると言われている。
その町が何処かさえ分かれば…」
「…分かるの?そこの場所が?」
「ハッキリとは分からない。けど大体想像はつく。」
「…何処?」「それはな…」
大富豪と呼ばれる者たちが集う町。
絵画マニアのアウザーもここに住んでいる。
「ここに…ジルが?」「…ああ、俺が推測するにはね。」
フィガロ国とは違い、時代遅れな格好をした人々が沢山歩いている。
「どうして分かるの…?」
「伊達にトレジャーハンターやってる訳では無いさ。
情報には敏感に反応しちまうタチでね…。
あいつは…ジルはきっとここで普段は富豪を装っている。
ここ(シドールの町)にはチョコボ屋があるのにあいつだけは長旅用のチョコボを自分で飼育している。
しかも町の誰一人も自分の館に入れたことが無いと言う。」
…さすがね。
いつもは子供らしい雰囲気さえ出ている彼だけど、こういう時は頼りになる、彼。
「どーせ俺らなんか外人はどう頼んだって入れて貰えないだろうからな、こっそりと忍び込むんだ。」
「だ…どうやってそんな事するのよ!?私、出来ない!」
「大丈夫。黙って俺についてくれば平気だから。」
本当に大丈夫なのかしら…
私はそう思いながら彼に手取り足取りして貰ってようやくジルのものだと思われる館に忍び込んだ。
(あとがき)
なんか…いきなりダークな話が持ち上がっちゃってごめんなさい…。
いつ終わるんでしょうね、本当に。
けどこの事件でロックとティナの関係が揺れ動く予定です。
(ラストが遠い道のりなので今の内にちょこっとネタバレ)
自分オリジナルのキャラクターを出すのって初めてな気がする…。
作品を盛り上げるのに上手く活用出来たらいいのですが…