一応ED後のお話です。ですが、パロディに近いです。
深く考えずに軽ーーーーく読んでください。
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砂を巻き上げる夜の風が、月明かりに照らされてキラキラと輝く。
オアシスに咲く花々は甘い香りを漂わせ、砂漠の国を神秘で彩っていた。
ゆるやかなカーブを描く砂丘の向こう、白銀にきらめく城。
フィガロ国。フィガロ城。
数年前まで辺境の小国に過ぎなかったこの国は、今や世界を救った
若き帝王が君臨する随一の大国として世界中にその名を轟かせていた。
行き交う人は数知れず、城は常に開け放たれ、国は日に日に隆盛を極めていく。
そんな世界一の繁栄を誇る城が、ここ数日は明日の準備に追われて
一段と華やかな活気に包まれていた。
女達が皆一様にかぶっている黒いベールも、まるでおとぎの国を見るようで
幻想的な雰囲気を醸し出している。
その城に、1人のドロボウが忍び込んできたことから
この物語は始まる―――――
*
右から左から、見張りの兵士達の足音が聞こえてきた。
「チッ、見つかったか」
ロックは軽く舌打ちすると、すばやく窓から身を乗り出す。
そのまま、この城を豪華に彩っている彫刻の一部を支えにしてクルリと
一回転すると、下の窓から滑り込むようにして中に入った。
―この城の構造ならもう頭の中に叩き込まれている。
何度も訪れた城だ。
下手をしたらこの国の王よりも詳しいかもしれない。
「今はそうじゃないと困るけどな」
ロックは不敵な笑みを浮かべると、音も立てずに走り始めた。
目指すは、世界一の宝。
誰も知らない隠し通路を通り抜け、明日の準備に忙しい大広間を横目に走り、
ゴールの手前までやって来た。
「19時55分、ジャスト」
時計を見ながらそうつぶやき、ロックはニヤリとする。
フィガロ国王の結婚式の前日。
世界の頂点にいる王の結婚ともなれば、そこに招待された各国の要人の
接待は並一通りではない。
その接待の中でも特に重要な、結婚前夜の晩餐時刻は夜20時だった。
その対応に追われ、エドガーは今、自由に身動きがとれない。
城の兵士達も、その要人達の警護に大部分をまわさなくてはならない。
つまり、
「花嫁を盗むには好都合って訳だ!!」
フィガロ国のしきたりとして、花嫁は婚約してから結婚するまで人前に出て顔を
見せないことになっている。
ということは、今日の晩餐に花嫁であるティナが出席するなんて
考えられないということ。
どの部屋に隠されているかという目星も、大体つけてきていた。
3箇所の候補のうち、兵士達の動きとメイド達の人数から察するに、
「この下に違いない」
ロックはそうつぶやくと、小さな爆弾を取り出した。
いくら警護が手薄になっているとはいえ、扉や窓から入ったら捕まりに
行くようなものだろう。
となれば、入り口は自分で作るしかない。
適度な大きさの穴が開くように火薬の量を素早く計算し、
即席の台の上に爆弾を置いた。
爆発音が少し心配だが、準備の騒ぎに紛れてそこまで
気にはされないだろう。
3、2、1、・・・ボンッ!!
爆発して穴が開いたことを確かめるや否や、ロックはすぐに下へ
飛び降りた。
猫のような身軽さで地面に着地すると、辺りが薄暗いことに気が付く。
…何か、おかしい。
そう思った瞬間、パッと室内が明るくなった。
その眩しさに思わずロックが目をくらませると、
「かかれ!」
という声と共に大勢の兵士達が突進してきて、ロックはあっさり
取り押さえられてしまった。
「…エドガー!!なんで?」
「意外そうだな、ロック」
大勢の兵士の向こう側から自信満々な様子でエドガーが現れた。
「お前からこんなラブレターをもらってしまっては、オチオチ晩飯を
食べていられないと思ってな。明日、食べることにした」
「まさか、お前…」
「察しの通りだよ」
エドガーは、愉快そうに笑う。
「結婚式は、明後日やることにした」
「汚ねーーーーーっ!!!」
「なんとでも言え」
そう言ってエドガーは不満げにロックを見やった。
「大体お前が、こんな常識外れな手紙をよこすからだろう。
『世界一の宝であるティナを盗みに参上します』って、なんだこれは。
友なら私の結婚を祝え」
「相手がティナじゃ、黙ってられるか!」
「お前がずっとティナを放っておくからだろう」
「俺に次々と仕事を寄越して、そうなるように仕向けたのはお前だろ!!」
「…おや、気づいてたのかい?」
エドガーはにっこり笑った。
「ま、友のよしみで逮捕したりはしないよ。ただし、結婚式が終わるまでは
監禁しておくから、そのつもりでな。ティナの花嫁姿が見られないからって
私を恨むなよ」
そう言うと、エドガーは微笑んで立ち去ろうとした。
すると、
「ククククク…」
ロックが下を向いて笑い始めた。
気でも狂ったのかと、エドガーや兵士達の間に緊張が走る。
「ハハハハハ!」
ロックは大声で笑うと、顔を上げてまっすぐにエドガーを見た。
「もう遅いよ、兄貴」
「は?」
「俺はマッシュだ」
そう言ってロックは顔に手を当て、ゆっくりとマスクを外し始めた。
下のほうからめくるようにして現れたその顔は、確かに……
「マッシュ!」
「マッシュ様!」
取り押さえていた兵士達は慌てて手を離し、その場にひざまずいた。
「…何、やってるんだ?」
驚きのあまり、エドガーは思わず間抜けな質問をしてしまう。
「ロックに持ちかけられたんだ。『兄貴に一泡吹かせてやらないか?』ってな」
マッシュはおかしそうにそう笑うと、首をコキコキ鳴らした。
「それで、その話に乗ったのか?」
「ああ、おもしろそうだったからな」
あっけらかん、とはこういう事を言うのだろう。
さすが国を捨てただけのことはある。
言われてみれば確かに、背丈も体の大きさもマッシュだった。
気づかなかった自分が悔しい。
しかし今は、そんな事を言っている場合ではなかった。
「ロックはどこだ?」
爆発しそうな怒りをどうにか抑えて、エドガーはマッシュに尋ねた。
「さあ?俺も知らねーよ。俺はただ囮としてティナがいる部屋に忍び込んでくれって
頼まれただけだからな。今頃、ティナを抱えてチョコボを飛ばしてるんじゃないか?」
「そんなはずはない!」
エドガーは思わず叫んだ。
「ティナは今日ずっと私と一緒にいたんだ。メイドの格好をして。
今だってそこに…」
そこまで言って、エドガーはハッと気が付いた。
――まさか。
「なるほど。そこか」
マッシュはニヤリと笑うと、兵士達の上を軽々と飛び越えて1人のメイドの前に
ふわりと降り立った。
「ティナ、盗みに来たよ」
いたずらっぽく笑う、その笑顔。
黒いベールの下でメイドは一瞬たじろいで、それから小さく呟いた。
「……ドロボウ、さん…?」
「させるかっ!」
エドガーがボウガンを放つのと、マッシュ、いやロックがメイドを抱いて
その場を立ち去るのは、ほぼ同時だった。
「煙幕!」
ロックの声と共に、一瞬にして辺りに煙が充満する。
「ゲホッ!ゲホッ!…やられたっ!」
エドガーも兵士達も煙にやられてボロボロと涙をこぼす。
ようやく収まった時には、もう部屋にロックとティナの姿はなかった。
「…!申し訳ありません!ただちに追いかけます!」
兵隊長はそう言って敬礼すると、転がるようにしてその部屋から出て行く。
エドガーの側近もやって来て、
「すぐにエドガー様のチョコボを準備いたします」
と言って走り去ろうとすると、
「いや、それは必要ない」
と、エドガーがサラリと制した。
「しかし、ティナ様が…」
「ティナは無事だよ」
「は?」
「ま、ついて来い」
エドガーはそう言ってニヤリとすると、部屋の奥へ入っていった。