部屋の奥にあった隠し扉を抜け、暗い廊下を急ぎ足で進みながら
エドガーは側近に自分のトリックの説明をしていた。
「あのロックのことだから、ティナを盗むまでは絶対に諦めないと思ってね。
罠を仕掛けておいたんだ」
「罠?では、先程のあのメイドは?」
「あれはティナの影武者だよ。体格や雰囲気、頭の形、それから声が
良く似ていたから雇い入れたんだ」
「そんな話、私も聞いていませんが…」
「ロックにバレてしまっては元も子もないからね。全て私が準備した。
すまなかったね」
側近の恨めしそうな顔を見て、エドガーはにっこりと謝る。
「『国王の結婚前は未来の王妃に敬意を示し、女達は皆黒いベールで顔を隠す』という
我が国のしきたりも役に立ったよ」
そう言うとエドガーは本棚の前に立ち、中から一冊の本を取り出して
その奥にあるスイッチを押した。
本棚が真っ二つに分かれ、中から隠し部屋への入り口が現れる。
「こんな仕掛けが…」
「この城は昔から随分と改築を繰り返してきたが、こういった仕掛けもたくさん
残してる。これはその一つだよ。ウチは先祖代々から、こういう仕掛けを作るのが
好きだったみたいだな」
そう言ってエドガーは階段を下りると、扉をノックした。
「ティナ、無事かい?中に入るよ?」
扉を開けて中を見渡すと、ベッドの上にちょこんと腰掛けている
ティナの姿が目に入った。
なぜか、黒いベールで顔を隠して。
エドガーは不思議そうにそこに近づくと、
「いくらしきたりとはいえ、こんな誰も来ない部屋の中で顔を隠さなくても
いいんだよ。ティナは真面目だな」
と言って、ベールを外そうとした。
すると、
「申し訳ありません!!!」
突然、叫んだと思ったら、ベッドの上でガバッと土下座してきた。
そして、あっけにとられているエドガーの前でベールを外す。
その下から現れた顔は……
「あっ、お前は影武者!どうして!?」
さすがのエドガーも大パニックだ。
「…ティナ様に頼まれたのです。代わって欲しいと」
「ティナに!?」
エドガーは意味がわからない。
「何度もお止めしたのですが、『絶対に大丈夫だから』と押し切られてしまって…。
本当に申し訳ありません」
そう言って、影武者はポロポロと涙をこぼした。
エドガーはそれを聞くと、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
それからしばらくぼんやりとしていたが、やがてある事に思い当たると
小さく呟いた。
「ああ、そうか…」
思わず苦笑する。
ティナ、君は―――――
*
「エドガー、怒ってるかなあ……」
チョコボを飛ばすロックの腕に抱かれながら、ティナは小さくため息をついた。
『こんなはずじゃなかったのに』と、心の中で何度も繰り返す。
「ん、何か言った?」
そんな心をロックは無視するかのように、ティナに笑いかけた。
―この笑顔に負けちゃったんだ。
ティナは思わず、ロックを睨んでしまう。
「そんな顔するなよ。手を取ったのは、ティナだろ?」
そう言われると何も言い返せなくて、ティナはうつむいてしまった。
あの時。
煙が充満する部屋の中で。
マッシュに変装するために身につけていたものを全て取っ払い、
月の光を背に颯爽とロックが手を伸ばした時。
ひっぱたこうと思っていたその手を、私は取ってしまったのだ。
今でもあの時の自分の行動が信じられない。
果てしなく悩み続けているティナを尻目に、当のロックは
上機嫌で続けた。
「でも、あれは頂けないよな。『ドロボウさん』ってなんだよ。
何度も言っただろ、俺はトレジャーハンターだって」
少し拗ねた様子でロックは言う。
それを聞いて、ティナは思わず笑ってしまった。
この男は、まだ気づいていない。
「ロックは世界一のドロボウさんだよ」
「!だから俺は――」
ロックの言葉は、ティナの口づけによってさえぎられた。
そんな自分の行動に驚いたかのように慌ててティナが体を離すと、離すまいかと
するようにロックが自分の唇を重ねる。
深く、甘く、激しく。
――盗まれたんだ。
ティナは思う。
多分、エドガーに手紙を見せられた、あの時から。
『世界一の宝であるティナを盗みに参上します』という
走り書きみたいなあの1行に。
この、世界一のドロボウさんに。
私の心は、盗まれた―――
<あとがき>
久々に投稿したと思ったらすんごい駄作でスミマセン。
フィガロ国はきっと西洋風だろうと思うのですが、「砂漠の城」って言ったら
アラビアンナイトだろという偏見からこの話は生まれました。
実は『宝物』でチラッと書いてた、「ティナが宝」のもう一つのお話です。
ちなみに題名はスキマスイッチの同名タイトル曲から頂戴しました。
(↑またかよ。そしてスキマファンの皆様ごめんなさい~)
大好きなロクティナと、大大大好きなスキマと、ルパンのカリオストロの
とっつぁんの名台詞という、個人的にはまさに夢のコラボレーション(笑)
トリックの浅はかさや話の筋が通ってない所はもう素直にすみません。精進します。
もっと言うなら、本当はお姫様の格好をしたティナをロックに盗んで欲しかったんだー。
アラビアのお姫様みたいな小悪魔チックな格好が、きっとティナは似合うと
思うんです!!!(力説)
あと、エドガーファンの方は何よりすみません。私も大好きなんです。
ただ、ロクティナを優先するとこうなっちゃいました…。
長々と読んでいただき、本当にありがとうございました!