優しい闇が、俺を包み込む。
それは真っ白な、暖かい温もりの、闇。懐かしく、そして悲しい闇。
真っ白い闇の中、俺は君を探していた。
*
目を開けると、視界に広がるのは、以前見たことがある天井。
そして、ベッドの傍らに座り、俺を見ている瞳。
「ロック! 気がついたのね」
俺が目覚めたことに心から安堵して、優しく微笑んだ彼女。
「セリス……」
彼女の名を口にして、そして、考えた。
何故俺は、こうしているのか?
確かナルシェの幻獣を狙ってケフカ率いる帝国軍が攻め入ってきて……それを何とか分散して蹴散らして、ケフカも退散させた。
そして───
(いや………)
(え? 何? 私が何だと………)
(きゃあぁぁぁぁぁ!)
力と力の、共鳴。
ティナの姿が、力の中で変化し。その声も、悲鳴からむしろ泣き声のようになって。
空高く、急激な速さで飛び去った。
ずっと肌身離さず持っていた、ペンダントひとつだけを残して。
「………! ティナ、ティナは!」
俺は慌てて起き上がり、セリスに詰め寄る。
セリスは俯いて。苦しげな言葉を吐き出した。
「遠くの空へ飛び去ったわ。あれは……本物の幻獣のようだった……」
初めて出会ったとき。
彼女は、類まれなる端正な容貌と。封印されていたことにより、未熟なままの心で。
剥き出しの不安。純粋なる恐怖。
それだけを、ただ。持ち続け、怯えていた。
守りたかった。
その瞳が、嬉しさの色を覚えるまで。
その心が、優しい微笑を覚えるまで。
でも。
俺たちは、結局。彼女を、ただ危険に晒し。
そして───
「ロック」
目覚めた後も、まだしばらくベッドで静養するよう仲間に指示されて。
ひとり、ぼうっと天井を見上げていた俺に、エドガーが声をかける。
「お前が眠っている間に、バナン様を中心とした面々で話し合ったのだが。今我々がなすべきことは、ティナの救出だ。そこで私とマッシュ、セリス、そしてお前とで行こうと考えているのだが……」
「……勿論、行く」
俺は、エドガーの言葉を最後まで聞くほどの余裕も持ち合わせていなかった。
「俺が、守ると……約束したんだ」
彼女が残していった、ペンダントを。無意識に握り締めて、俺は呟いた。
そして。
見つけた君は、やはり剥き出しの不安と、純粋な恐怖だけを抱いたまま。
全てに……自分自身に、怯えたままで、眠っていた。
俺たちが、彼女に無理を強いて。これほどまでに強いショックを与えてしまったのか。
守りたいと、思ったのに。結局は、俺たちが彼女の力を当てにして。
こんなにも、苦しめている。
(ティナ………。)
俺は心の中でそっと語りかける。そして、大事に持ってきていた彼女のペンダントを取り出した。
幻獣の姿となっても、その華奢な体と細い首筋は、そのままで。ペンダントもそのまま、元のとおりつけ直すことができた。
まるで、彼女を守るかのように光を放ち、彼女を彩る宝玉。
宝玉に守られていてもなお、苦しげな表情を浮かべて。ティナはまだ、目覚めない。
(必ず、君の仲間たちを救い出して、戻ってくるから。だから……待っていてくれ)
未だ眠ったままの、彼女の心に。俺は心でそう誓った。
*
優しい闇が、俺を包み込む。
それは真っ白な、暖かい温もりの、闇。
未だ俺は、真白き闇に。君を失ったまま、彷徨い続ける。
もう一度、君の瞳を見ることができる日まで。
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ロックの一人称です。ティナが覚醒した辺りをちょっと書いてみました。いつだったかは忘れてますが(爆)
…早く原稿何とかしよう(汗)