気がつくと何処か暗いところにいた。
ー此処は何処なの?
私はただ首を左右に振って辺りを確認していた。
「…全く、あいつは仕方が無い奴だな!」
「人間の女を妻として迎え入れるなんて…冗談もいい所だ!」
聞こえてくる、誰かの声。
けどこれはきっと人間の声じゃない、そう、これは…
「まぁまぁ、今更過去のことを言ったって仕方が無いだろう。
人間の女だって別に悪気がある訳じゃあなさそうだし…」
長の言葉を聞いた他の者たちはもう、黙るしか無かった。
ーあの格好は…もしかして…
「あの女はもしかしたら我々幻獣と人間を結びつける良いきっかけになるのかもしれないぞ。」
ああ!やはり。
そうだ…此処は幻獣界。私の、生まれ故郷の…
「長老!大変だ、マドリーヌが…」
「何?お前の妻に何かあったのか?!」
「いきなり産気づいて…普通だったらあと一年はかかるのに…」
「幻獣と人間とは体のつくりが違うからな。
人間の方がお産が早いのかもしれん…とにかく急ごう!!」
そういうと幻獣達は遠くに見える小さな家を目がけて走っていってしまった。
マドリーヌ…それってもしかして…
私も彼らの後ろを追って走っていった。
「ううっ…」「マドリーヌ!しっかりしろ!!」
「マディン!騒ぐな、お前は外で待っていろ!!」
言われるとその幻獣は表に出た。
ーああ!これは…
そう、人間との間に子を持った幻獣…彼は…
「お父さん!?」
そう叫ぶと私もまた外に出て彼の後を追った。
夢の中なのだろうか、誰も私の存在に気づかなかったらしい。
残った幻獣達はマドリーヌのお産を見届けていた。
はあはあと息を切らしながら走ると、そこは切り立った崖の上だった。
マディンは…お父さんはただ上を見て星を眺めていた。
「お父さん!!」
私は思いっきり声を張り上げてそう叫んだ。
「…?誰だい?君は…」
振り向いてくれたお父さんはそう、聞いてきた。
ーまだ私が誰なのか知らないのね…
「とにかく君も此処に来たようだな…まぁ座ってくれよ。」
そういうとお父さんは隣の席を譲ってくれた。
私は言葉に甘えてそこに座った。
「大変ね…人間がすぐ子供を産むなんて知らなかったでしょう?」
「…ああ。知らない事だらけでもうどうすればいいのやら…」
お父さんは苦笑して言った。
「けれども私の愛しい妻だ、何があっても守りきってみせる。
生まれてくる子供も…」
ああ、私のお父さんはこういう顔をしていたんだ…
間近でみるその顔はあの人に少し似ている気がした。
「私が幻獣でいるせいで迷惑をかけてしまう。
彼女にも、子供にも…それだけが本当に申し訳ないと…」
顔を歪めて続ける父。
「けど…それでも幸せにしてみせる!妻を、子を…
それだけが俺の望みなんだ…!」
それを聞いた瞬間、私の心は理性を失った。
「お父さん…!私は、貴方の…
貴方の娘なんです!!」
言ってはいけなかったのかもしれない。
黙っているべきだったのかもしれない。
けど、出来なかった。
「え…君が…俺の…娘!?」
お父さんは驚いていた。
「ええ!貴方の娘の…」
「…君は…もしかして…ティナか?!」
お父さんの目が私の事を見つめた。
「ええ!私はティナです!貴方の…娘です!」
私の目からは、もう涙だけがあふれ出た。
「ティナ…そうか!君が…ティナだったんだね!」
言うと、お父さんは私の事を力一杯抱きしめた。
私もお父さんの事を思いっきり抱いた。
「気がつかなくてごめん…。
まさか私の娘がこんなに綺麗に育ってくれていたなんて…」
そう言って私の事を見つめた。
間近で見る、父の目…
その瞳の中には熱さと、優しさが込められていた。
この瞳で見つめてくれる人がもう一人いるから、分かる。
その刹那だった。
お父さんの体が透けていった。
お父さんだけじゃない、周りにある風景も、何もかもが見えなくなっていく。
「もうお別れの時間か…」
どうやらお父さんの目からも、私が消えかかっているらしい。
「お父さん…!」
「さよならだ、ティナ。また…また会えるといいな。」
さようなら。
そういうと父の姿はすーっと消えてしまった。
消える最後まで、父は私の事を見つめてくれた。
「ティナ~~!もうそろそろ起きてくれよ~~!!」
夫が…ロックが私の肩を揺さぶった。
「…私は…?今のは、夢…?」
「随分長い夢だったみたいだな。
腹減ったろ?朝飯にしようぜ。」
ああ…この目は…
「お父さん…。」
「お父さん?俺のことは貴方、って言ってくれよ?ハニー。」
何も…変わらないわ。
私には…今でもいるのね、見守ってくれる人が…
そう思うと私は彼の後ろ姿を追いかけた。
(あとがき)
訳わかんなくてすいません…
思いついたが吉日、すぐに書きました。
ロクティナ要素…ほぼ無いですね…。
すいません…もっと精進してきます。(そういっていつも成長していないですね)
ちなみに題名はエリック・クラプトンさんの有名な一曲からとりました。