何が起こったのか分からなかった。
一瞬にしてものすごい量の光に包まれたと思ったら、追いかけるような
地響きが体中を突き抜ける。
薄れる意識、破壊音、吹き荒れる爆風。
奈落の底に突き落とされるような、足元から世界が崩れていくような、あの感覚。
ケフカによって起こされた三闘神の力の不均等により世界は崩壊し、
私たちはバラバラになった。
そして私は――――1人になった。
「…ここはどこ…?」
気づけば私は、荒野に1人で倒れていた。
さっきまで一緒にいた仲間達はどこにも見当たらない。
「セリス?エドガー?マッシュ?カイエン?」
必死に仲間の名前を叫ぶ。
「リルム?セッツァー?ストラゴス?シャドウ?」
本当に、本当に誰もいない。
「………ロック!!」
返事は来ない。
静まり返った大地が不気味で恐ろしくて、私は急いで立ち上がると
一歩ずつ歩き始めた。
(大丈夫、きっとみんな生きてる)
みんなのためじゃなく自分のためにそう思う。
そうでも思わないと、どうしてこうやって歩いているのか分からなかったから。
「痛っ!」
突然足に鋭い痛みを覚えて、思わずその場にしゃがみこんだ。
見れば、足だけではなく体中からおびただしい量の血が流れ出ている。
「回復呪文…」
唱えようとするのに集中できない。
私はその場に倒れこむと、分厚い雲に覆われた空を見上げた。
もう二度と光を見ることができないような、黒い暗い雲。
(…私、死ぬのかしら?)
この世界の果てみたいな所で。
でも、それならそれでいいと思った。
上手くいかなかったとはいえ世界を救う戦いで死ぬのだ。
これ以上の大義名分はないだろう。
死ぬ事は、不思議と怖くなかった。
自分が死ぬときはきっと1人だろうと、なんとなく思っていたから。
私は乱れた息を整えると静かに目を閉じた。
全身から力が抜けていく。同時に、痛みも。
少しずつ少しずつ、命が抜けていく―――
『逃げるなっ!』
突然バナンの声が聞こえた気がして、急いで目を開けた。
きしむ体に鞭を打って起き上がり、辺りを見回したけれどやっぱり誰もいない。
「幻?」
そう思うとドッと疲れが増した気がして、私は仰向けに倒れこんだ。
全身に激しい痛みが走る。
と同時に、あの日のバナンの言葉がよみがえった。
『自分の力を呪われたものと考えるな』
…分かってる。
『おぬしは、この世に残された希望という名の一粒の光じゃ』
分かってる。
「そんな事は分かってるのよ」
私はこの世にたった一人しかいない、幻獣と人間のハーフ。
2つの種族の架け橋となって、世界を崩壊から救わなければならなかった存在。
だけど。
「だけど私は、何も出来なかったじゃない」
理不尽な、強い怒りがこみ上げた。
幻獣達はケフカに殺された。
レオ将軍も殺された。
救おうとした世界は崩壊した。
私は誰も、何も守る事ができなかった。
「どうすれば良かったの?」
情けなくて悲しくて、自分に腹が立ってしょうがなかった。
悔し涙が頬をつたう。
守ろうとしたものが全て目の前で壊されていく。
大事な人も、大事なものも、何もかも。
そしてついに、やっと見つけた大切な『仲間』まで失ってしまったのだ。
生きている意味が分からなくなる。
「もうどうしたらいいか分からない…っ」
どうすれば?
…この質問を以前、誰かにぶつけた気がする。
太陽みたいに笑う素敵な人に。
『これからは自分の意思を持てってことさ』
優しい声が、聞こえた気がした。
『今は深く考えないこと!』
茶目っ気たっぷりに笑う、あの笑顔が見える。
『道は、いずれ見えてくるから』
「―――ロック!!」
私は立ち上がると、大声で叫んだ。
「ロック!ロック!」
何度も何度も呼び続ける。
私も、生きていれば。
生きていればまた、あなたに会える?
私、頑張るから。
ここが始まりだったんだって、笑って話せる日まで
生きてみせるから。
だからお願い、どうかもう一度あなたに会えますように。
その時には、自分で見つけた道を歩く自分でありますように。
この願いが、かないますように……
<あとがき>
世界崩壊後ってきっと、ティナにとっては本当の意味で初めて1人に
なっちゃった時なのかなあと思っています。
そんな時に思い出すのはロックであってほしいなあ。なんて。
「道はいずれ見えてくる」っていい言葉ですよね。
私もそう信じられる人でありたいです。
読んでいただいて、ありがとうございました。