僕が、君の手を初めて取ったとき。
君は、躊躇って。
そして、僕を見詰めた。
*
人と『触れ合う』行動を、嫌悪していたのかと思った。
ある日、尋ねてみたとき。
君はしばし目を伏せて、口を開きかけては閉じる。
まだ発達中の、同年代から見れば乏しい語彙力を総動員して。
答えを導き出そうとしていた姿が、微笑ましかった。
そして、得られた回答。
「わからない、の」
「……え?」
「経験がない、と言えば適切なのかしら」
魔導の実験や、そのために必要な心身の精密な健診。
そこに、人と人との『触れ合い』はなく。
何らかの意味を見出すことなど、できなかった、と。
彼女は、そう言った。
初めての、二人での外出。
俺は彼女に、外出中は手を繋ぐことを提案した。
「迷子にならないために必要なんだ」
「……そう」
何の抵抗もなく、俺の手にすっぽり包み込まれた、白く小さな手。
剛剣を振るい、凄まじい炎を生み出すとは、全く思えないそれ。
強く力を込めれば、折れてしまうかもしれないとさえ思えて。
「いい?ティナ」
俺は彼女の手をしっかりと握ると、まっすぐ目を見た。
比類なき輝きを宿した対の宝玉が、俺を見返した。
「俺が君と手を繋ぐのは、さ。もう一つ、理由があるんだ」
「……理、由」
彼女が復唱するのに合わせ、俺は頷いて。
「君が『ここにいる』っていうのを確かめるためだよ」
「……私が……」
「そう。そして俺が『ここにいる』って君に伝えるためなんだ」
「え?」
首を傾げた彼女へ、言葉を続けた。
「人は、お互いの存在を感じ取るために『触れ合い』をするんだよ、きっと」
今。
俺はやっぱり、君と手を繋ぐ。
「ロック」
「ん?」
俺の手を握る君は、微かに微笑んでいた。
「貴方が教えてくれた言葉の意味、最近やっとわかったわ」
「……何の?」
「手を繋ぐ理由、よ」
彼女は笑みを深めてから、言葉を続けた。
「貴方の手は、暖かいの。だから、嬉しいの」
貴方がここに、いることがわかるから、と。
彼女は、そう言って、笑った。
*
僕が、君の手を取るたび。
君は、僕を見詰めて。
幸せに、笑う。
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大変に微妙なロクティナ文でございました…。
ロック一人称ですが、通じましたでしょうか?
意味不明な箇所は、どうぞお許しいただけますように。