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「優しい雨」 シスターM

 細い肩を、濡らす雨。
 しとしと、しとしと。
 それは君の心を覆うように、優しい。


    *


雨の街。
身分とか、財産とか、そんな人間の基準によって『下』とされ、
追いやられた人間達の街。

止まない雨の街の中、年老いた幻獣は、何を思ったのか。

記憶を取り戻したティナと、ゾゾを歩く。
「ティナ、歩いてて辛かったら、いつでも言うんだぞ」
「………」
無言で頷くのが、了承の合図。
口を開くことはない。
かつて出会った時のように、無口になった彼女がいた。

彼女自身の幼い頃、そして在りし日の父親の記憶を受け継いだと
言った。
父の力を宿した魔石をぎゅっと握って、目を伏せて。
唇だけが、動いた。

(おとうさん)

あれから、最低限度の言葉しか、発しない。
語ろうとはしない。
……語りたがらない。


「無理に聞き出すのはよせよ」
エドガーから、釘を刺された。
「親身になるのは結構なことだが、ティナにとって、それが良い
効果をもたらすかは……わからない」
「……わかった」
俺は素直に頷いた。

色男の声が尖っていたのは、ティナを案じての事。
そして、彼女の再度の暴走を懸念しての事。
幻獣との共鳴がなければ、恐らくは大丈夫だろうけれど。
精神が不安定になってしまったら、どうなるのか。
判断材料が、なさすぎた。

ぴたり。
不意にティナが、足を止めた。
「どうした?」
彼女が視線を止めた先には、一輪の花。
花屋に並ぶようなものではなく、名も知られないような野草。
でも、白い花弁は、じいっと雨に耐えていて。
綺麗だと思った。

「………………ん」
「え?」
ティナが、何かを言った。
俺は慌てて聞き返し、耳を寄せる。
ティナはそこで、初めて俺に向き直り、水晶のような澄んだ瞳で
俺をじいっと見つめてから、再び花に視線を戻し、声を発した。

「おかあさんの花だわ」
「……おかあさん、の?」
「おかあさんが好きな花よ……。幻獣界にもあったわ」
花にそっと手を伸ばし、ティナは呟いて。
花弁をひと撫でしてから、手を戻した。
「花は……同じ、なのね」
ティナが、囁く。

幻獣界と人間界。
元々ひとつの世界だったのが、重い扉で隔てられた世界。
それでも、花は等しく。
「………ロック」
「!」
ティナが、俺に向かって笑う。
かつてのような、本当に微かな笑みだったけれど。
「また助けてもらったわ。ありがとう」
発せられた言葉と、彼女の瞳に宿る感謝の光が、嬉しくて。

「どういたしまして」

俺は、今日一番の笑顔になった。


    *


 細い肩を、濡らす雨。
 しとしと、しとしと。

 君の心そのままに、優しい雫。


 ─────


ご無沙汰してますー!
6月は梅雨時ということで、雨から1作捻ってみました。
ティナが覚醒後に合流した直後のイメージですが…うーむ(汗)
意味がわかりませんね。すみませんー

Title
「優しい雨」 シスターM
Posted
2008/06/06
Category
ロクティナ・SS

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