「大丈夫かしら、あの人…」
柔らかいダブルソファに腰掛け、バイブルを読みながらそう呟いた。
彼は今、十年も会っていない母親の元へ行っているのだ。
誕生日プレゼントを渡しに…
私がロックと結婚したのは、今からまだ2ヶ月前のこと。
結婚式はかつての仲間達を取り囲んで楽しく(?)取り行われ、永遠の愛を神父の前で誓ったのだ。
こうして、私達夫婦は何があってもお互いを労わりあい、どんな秘密も共有し合おうと宣言したのだ。
けど、彼には昨晩まで隠している事があった。母親のことだ。
私は最初、彼の母親はもう、死んでしまったのだろうと思っていた。
だから、私達の家族はロックと私の2人だけ。
そう思っていた。
しかし昨晩の情事の後、彼のコートのポケットを調べたとき…あったのだ。
彼の母親の、つまり私の義理のお母さんの居場所が書いてある紙が。
私は彼に、義母に会うべきだと彼に進言した。
家族がいるって、本当に嬉しい事だと思っていた。
私は、お父さんもお母さんも小さい頃に失くしていたから…
しかし、彼はそれを拒んだ。
彼の母は、彼が幼い頃に男を作って出て行ってしまったらしいから…。
けど私は、引き下がらなかった。
「…じゃあ、どうしてお義母さんのアドレスなんか知ってるの?」
このまま母子が引き裂かれたままでいるのは嫌だったから。
彼まで、私みたいな一人ぼっちにしたくは無かったから。
だから私は、諦めなかった。
そしてそんな私に、彼はついに折れた。
会ってくる。
会って、自分に奥さんが出来たのだと伝えてくる。
そう、約束してくれたのだ。
そして、私が起きる前朝早くに家を出た。
早く、お義母さんに会うために…
ガチャッ。
扉が開く音は、夫の帰宅をいち早く私に伝えた。
「おかえりなさい。」
問いかけられた彼の顔は、苦虫を噛み潰したかのような顔だった。
とても笑顔で出迎えてあげられそうにはない。
何て話しかければいいんだろう。
そう迷っていた私に、ロックはきっぱりと言った。
「もう俺とは関わりたくないって、お袋。」
…やっぱり、そういうことだったのか。
ああ、あんな事言うんじゃなかった。
彼の傷跡を広げるような真似をして…
罪悪感から、彼と目を合わせられない。
ロックは、やはり怒っているのだろう。
ごめんなさい。
そんな思いを口から出そうとした、その時だった。
「…ちょっと外に出ようか。」
え、けど雨じゃあ…
そんな私の意見はまるで無視して彼は私を外へ連れ出した。
「うわぁ…」
其処には、数え切れない程に咲き乱れたあじさいが。
花びらは降り注ぐ雨によって、丁度美しく見える位に湿っていた。
今まで中に閉じこもってばかりで、こんなに美しいものを見ないでいた自分が憎たらしい。
「気に入った?」
答える代わりに、彼の肩に垂れかかった。
「…怒ってない?」
「当たり前だろ。」
彼は私の肩を抱きながらあじさいを見つめた。
「…小さい頃、お袋がよく持って帰ってきてくれたんだ。」
彼はそう呟いて、その一本を抜いて持ってきた。
「知ってるか?アジサイの花言葉は『家族の結びつき』だって。」
ああ、彼って人はどこまで優しいのだろう。
そして、強いのだろう。
「…何てな。さ、もうそろそろ戻るか。」
私の背を押して家の中に入れる彼。
私の瞳は、彼が持ち込んだアジサイに注がれた。
彼の家族は私で、私の家族は貴方で。
一人ぼっちだと寂しいかもしれないけど、二人なら寂しくない。
二人で、作っていこう。
いつまでも幸せな家族の輪を…
<あとがき>
お久しぶりです、皆様。
え~っと、6月もいよいよ後半になりましたね…。
小説、何とか間に合いました!
内容はハチャメチャですが…
珍しくシリアスチックな文章を書こうとしたら、こんな事に。
6月っぽさは何とか表現したつもりでいるのですが…
こんな駄作ですが、シスターM様に捧げます。(迷惑)
もし宜しければコピペでもしてやって下さい…