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「願い、ひとつ。」 シスターM

「ねぇねぇ、ティナ?」
飛空艇を一度着陸させて、休憩していた昼下がり。リルムが私を呼び止めた。
「なぁに?」
答えると、彼女は好奇心丸出しの表情で、私に一言。

「幻獣って、どんくらい生きてるの?」

「え?」
私が首を傾げると、リルムは矢継ぎ早にまくし立てる。
「幻獣ってさ、あんなに強い魔力とか持ってんでしょ? だったら人間よか長生きすんの
かなって思ったりしたんだけど。ティナ、そこんとこ知らない?」
「……知らないわ」
私が答えると、リルムはちょっとがっかりしたような表情になり。
それから、またぱあっと顔を輝かせた。
「そうだ! 魔石の誰かに聞けば答えてくれるかも!」
言うが早いか、どこかへと駆け出していってしまった。
あとに残されて、さっきのリルムの質問を、黙って考えてみる。
幻獣の、寿命……。人間はせいぜい100年程度のはずだけど、あれだけの魔力を持つ生命体
が、そんなに短い寿命であるはずもないし……

………待って。それじゃ、私は?

「ティナ」
飛空艇の甲板で。ひとり、空を眺めていたら。背後で私を呼ぶ声がした。
「こんなとこで、何してんだ?」
茶目っ気たっぷりの笑顔で話しかけてくるロック。私よりも年上なのに、こんなときの彼
は、まるで私と同じぐらいの年齢に見える。
「別に……」
考えていたこと、そのままを。何も取り繕うことなく答える。
「ふぅん?」
彼は曖昧な返事をして、甲板に佇む私の隣に立った。
「その割には、眉間に思いっきりシワ寄ってるんだけど?」
いたずらっぽい口調で、私の眉間をちょん、とつついた。
「んもう!」
「ほらほら、そんな怒んない。せっかくの美女が台無しになるぜ?」
怒る私をからかう人。……でも、本当はとっても温かい人。
この人とも……人より早く、あるいは遅く。いずれはお別れしなきゃいけないんだろうか。
そして、今私が大好きな、仲間たちとも。

「……ティ、ティナ!? ど、どうかしたのか? おいっ!」
「え?」
ロックのうろたえる声。何をそんなに慌ててるんだろう。
「どうも、しない、けど?」
変ね。私の声、何だか掠れて。途切れ途切れにしか、話せないよ。
「そんな嘘言うなよ…。馬鹿野郎」
吐き捨てるように、苦々しい言葉を口にして。それから、とっても切ない瞳を向けて。
ロックが、そっと私の頬に手を触れる。トレジャーハンターなんていう割には綺麗な指が。
私の頬をそうっと拭う。

掬い取られたのは、涙。
泣いていたのは、私。

「ほら、ここ使って」
ロックはそう言って、両手を広げ。私の体をそっと包み込む。
「ロック」
彼の暖かい腕の中、私はその名をそうっと呼ぶ。答えるように、彼の力が強くなる。
「ちゃんと泣いて。ここはティナ専用の場所だから」
「……うん」
ロックの囁きを聞きながら、私は久し振りに、涙を流した。

   *

綺麗な笑顔は、たくさんある。でも、綺麗な泣き顔は、案外ないもので。
ティナは、どちらも、綺麗だと思った。
もちろん笑顔と違って、泣き顔をそんなにいつも見たいわけじゃ、なかったけど。
宝石のような瞳から流れる、涙のひと雫も水晶のようで。ただ、綺麗だった。
かといって、こんなに辛そうなティナは、一秒たりとも見たくない。
「何があったんだ?」
なるべく穏やかな口調を心がけて、まだ俺の胸に顔を埋めたままの彼女に話しかける。
「……何でも、ない、の。ごめんね」
まただ。彼女はいつも、心配をかけまいとして。誰にも何にも話さない。
「そんな状態で言ってもね、全然説得力ないって知ってた?」
俺は溜息混じりに囁きかけて、ティナの顔を持ち上げると頬にそっと口付ける。
柔らかな頬は、瑞々しい果実の感触で。
「ロ、ロック……!?」
ティナが顔を赤らめる。
「辛いこと溜め込むのは、なしだろ? さ、ちゃんと俺に話して」
俺は再度、優しく声をかけて。彼女が口を開けるように、感情を曝け出せるようにした。
彼女は、一度深呼吸して。それからゆっくりと、話し始めた。

幻獣。強大な魔力を誇り、それを使いこなす強靭な肉体…。
その血を半分とはいえ受け継ぐティナが、不安を抱くのも、もっともな話で。
俺は今まで全く思いもよらなかった、彼女の心に巣食う陰を見た気がした。
「ティナ」
そっと名を呼び、長い髪を弄ぶ。さらさらと、俺の指をすり抜ける、翠の髪。
でも、何を言えばいいのか。言葉なんて、見つかるはずもなく。下手な気休めなど、彼女
が求めているものじゃないことぐらい、俺だってわかってる。
だから、俺は。心のままに、飾ることなどできないままに、一言、一言、言葉を贈る。
悲しみ色の泉に沈む、俺の大事なこのひとに。
「俺は、約束するよ。ずっとティナと一緒にいるって。ずっとティナを守るって」
俺の言葉に、彼女は俯いていた顔を上げて。誰よりも澄んだ、対の宝玉が。俺の姿を映し
ていた。
「君がこれからどうなるかなんて、それは誰にもわからない。俺だって、自分がどうなる
かなんてわかんないんだぜ? 皆だってそうさ。だけど、俺はずっとティナと一緒にいた
い。ずっと君を守りたい」
「……ロック」
再び涙が溢れ出す、ティナの瞳。

「おいおいお2人さん、そういうのはもっと隠れた場所ででもやってもらえねぇか?」
あらぬ方向から、予想もしなかった人間の声。
「「!?」」
俺たちは慌ててぱっと離れ、声のほうに振り返る。
苦笑を浮かべたセッツァーの姿。
「そろそろ出発したいんだが、俺がここにいてもかまわねぇなら続きをやってくれ」
にやにやと、皮肉半分からかい半分で話す男を前にして。
俺たちはいそいそと、船室に引っ込んだ。
とりあえず、俺の部屋に逃げ込み、ベッドに並んで腰掛ける。
「………」
「………」
お互いに、沈黙。

そして。
「……ぷっ」
「……ふふっ」
沈黙がなぜかおかしくて、俺たちは不意に笑い出した。
「な、何だよティナ……くくっ」
「ふふっ、ロックこそ……ふふふっ」
さっきまでの雰囲気も、何もかも吹っ飛んで。
俺たちは、互いに気の済むまで笑い転げた。

   *

先のことなんて、私にも。他の誰にも、わからない。
でも、それでも。ロックは約束してくれた。
それは、彼の偽りない気持ち。彼の真っ直ぐな、強い気持ち。
だから、私もいつか、彼に贈りたい。私の気持ちを、私の言葉で。

未来はひとつなんかじゃない。それを決めるのは、自分。
だから、俺は必ず守る。君と交わした約束を。
それは俺の望み。そして、ティナの望みだから。
これからも、変わることなく。ひとつの約束を、君だけに。

『ずっと貴方と一緒にいたい』

   ───────

以前とある方にお送りしてみたものです。
サイト自体をお見かけしなくなってしまったので、連絡を差し上げることもできなくなってしまったのですが。
自分の駄文の中でも珍しく気に入ってるものなので(この程度で<汗)ここで出してみました。
趣味丸出しでスミマセン(爆)

Title
「願い、ひとつ。」 シスターM
Posted
2003/09/10
Category
ロクティナ・SS

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