貴方の隣にいる気持ちは。
静かな夜の、穏やかな眠りにも似て。
*
あの日以来、晴れない空。
大地は静かに死を待ち、草木も眠るように死に絶えていく。
──早く。
早く、止めなければ。
世界の全てが、終わりを受け入れてしまう前に。
(……例え、私が、消えるとしても……)
声には出さず、唇だけでそっと、囁いた。
「……ここにいたの、ティナ」
予期せず私の耳に届く声に、はっとして振り返ると。
漸く合流できたばかりの仲間の一人が、柔らかく微笑んでいた。
「ロック。何かあったの?」
「探してたんだ、君を。今、いいか?」
「?……ええ」
どこか恥じらうかのような、それでいて楽しそうな表情に。
疑問を禁じえないけれど、素直に頷き、言葉の続きを促すと。
彼は私の目の前に、握り拳を作っていた右手を差し出して。
そうっと、開いた。
掌の上にひっそりと収まっていたのは、精巧な細工。
木の葉を象った銀色の上に、小さな紅い石が行儀良く収まって。
「………ロック、これ………?」
「綺麗だろ。気に入った?」
「ええ、とても。でも、どうして私に見せてくれるの?」
「え!?……あ、ごめん。ちゃんと説明してなかったね」
首を傾げる私に、彼が教えてくれた。
私が一番見たいと思う、心からの笑顔で。
「今日は君の誕生日だって聞いたんだ。だから、プレゼント」
「……!」
「こんな戦いの途中だから、派手にパーティーもできないだろ?
だからせめて、これぐらいは、って思って」
笑顔のままで、貴方が私の掌に載せてくれた、プレゼント。
『おめでとう』の言葉と共に。
───ああ。
貴方はいつも、こんなに。
「どうかな………………ティ、ティナ!?」
「え?」
ロックの声が、驚く程に狼狽して、私の肩をぎゅうっと掴んで。
頬をぎこちなく拭われて、初めて濡れていた事に気付く。
両目から溢れる雫が、彼の輪郭すらぼやかしてしまう。
「どうしたんだよ?急に涙なんて……何かあったのか?」
「え……ううん、違う……違うのよ、ロック」
気遣う視線が苦しくて、懸命に涙を止めようとするけれど。
不思議なぐらい、後から後から涙が流れて止まらない。
制御、できない。
初めての事態に苦慮している私を、どう思ったのか。
ロックは私の両肩を引き寄せて、腕の中に包み込んだ。
「……ロック……」
「とりあえず、涙が止まるまで、こうしてるよ。
さっきあげたヤツの感想は、後からでいいからさ」
穏やかな声が、温もりが、私の心に染み透る。
彼の心そのままに、包み込むような優しさ。
目を閉じて、身体をそうっと預けてみれば、伝わるのは鼓動。
彼の生命が確かにそこで、しっかりと息づいている証。
心の中が、凪いでいく。
雫が、止まる。
瞼をそうっと開くと、ロックの笑顔が目に入った。
「……落ち着いたみたいだな。良かった」
優しい声が、嬉しくて。
私は今度こそ、自然と笑顔になれた。
「ロック」
「ん?」
「プレゼント、ありがとう。とても素敵」
私の言葉に、ロックは「そっか」と一言だけ答えて、笑い。
涙の意味は、問わなかった。
*
眩しい程の太陽ではなく、ひっそり寄り添う月のように。
貴方が私の心を包んで、心を解いてくれるから。
もう、大丈夫。
─────
ご無沙汰してます。
い、一応間に合った…かな?ティナお誕生日記念です。
しかし暗い。仄かにではなく確実に暗い…(汗)
ちなみに元ネタは、来月発売の平原○香のあのドラマ主題歌。
曲を聴いて思いついたシチュエーションを、一気にアップ。
幸せなのか、そうでないのか…むむ。
ともかく、ティナ、お誕生日オメデトウ!