特別なんて、いらない。
欲しいものは、ひとつ。
*
ふと視線を向けた窓の外に、ちらちらと。
「……あ」
「どうかした?」
思わず漏らした声を、しっかりと耳に留めたのは。
静かに、そして柔らかく。
でもしっかりと、私を抱き締めてくれているひと。
腕の中から視線を戻せば、穏やかな笑顔がそこにあって。
思わず嬉しくなって、口元が勝手に緩む。
「雪よ、ロック」
「え?……本当だ。道理で部屋が冷えてくる筈だよな」
「ホワイトクリスマス、って言うのよね、確か」
「良く知ってるな。誰かに聞いたのか?」
「ええ、リルムから。手紙が来てたの」
「ふぅん、そっか。成程な」
ちょっと待ってて、と小声で言い添えて、彼は私を解放する。
途端に冷やりとした空気の膜が、自分の身を覆ったような感覚。
ここは暖炉のある室内だというのに、不思議で。
思わず首を傾げる私の態度には気付かず、彼は暖炉へ歩み寄り。
大きな薪を放り込んで、炎の勢いを強めた。
「よし、これでいい。お待たせ、ティナ」
笑顔で戻って来ると、彼は再び私を腕の中へ閉じ込めた。
そうっと彼の胸へ凭れかかると、力強い鼓動と振動が直に届く。
目を閉じて、しばらくの間その音に心を委ねた。
彼が確かにここにいて、私が寄り添っていられる時間。
長く辛い戦いを経て、初めて得られた穏やかなひと時が。
今の私には、何よりも大切なもの。
凭れかかった姿勢のまま手を伸ばし、彼の服をそっと掴む。
すると、私の髪を弄んでいた彼の手が止まって。
「何?」
「別に。何でもないわ」
「……そっか」
吐息混じりの声がした後で、私の手に重ねられたのは。
彼の大きな、器用な手だった。
私の手を緩やかに包み込むと、彼の声が降ってきた。
「ティナ」
「なあに?」
「ありがとうな」
唐突に言われた言葉の意味を理解できず、私は顔を上げる。
見上げた視界には、さっきよりも優しい笑みを湛えた彼。
「生きていてくれて、ありがとう。俺の側にいてくれて……本当に、ありがとう」
「ロック」
「君を愛する事ができて、俺も君に愛されて。今の俺、本当に……誰よりも、幸せだな」
一言一言、確かめるように紡がれた言葉は。
彼の優しさと愛情とが生み出した、私への最高の贈り物で。
私にできたのは、たったひとつ。
「私もよ、ロック」
緩みっ放しの表情を意識しながらも、彼の言葉に賛同して。
背中に回された彼の腕の力が、強くなったのを意識して。
静かに頷くだけだった。
*
物語のような恋も、ご馳走も、必要ない。
たったひとりのあなたと、共にいられれば。
それが私の、何より嬉しいこと。
聖なる夜の、幸福。
─────
ご無沙汰してます!
一応ロクティナクリスマス的創作、ティナ一人称でございます。
ただし、それを示す描写はほぼ皆無という相変わらずの痛々しさ全開文章ではありますが…(汗)
そちらについては、どうぞご容赦を。