ふわふわで。
ぽかぽかな。
とても、すてきな。
*
世界が漸く、希望を取り戻してから早数年。
荒れ果てた大地を、人の力が復興に導いて。
新たな息吹を感じるのは、世界の片隅の、ここモブリズにも。
「ロック!」
「ティナ!?どうした」
珍しく大きな音を立てて、ドアを開けて入って来るのは。
今やすっかり女性らしく成長を遂げた、ティナその人。
……ま、その。
三年前に、一応『俺の奥さん』っていう肩書きもついたんだが。
とにかくその彼女が、やけに慌しく部屋へと入って来た。
断っておくが、普段のティナはそんな真似しない。
特に今日みたいな、俺が自室で休んでる時は、絶対に。
相変わらずのトレジャーハンター業を続け、たまに帰宅する俺。
そんな時、いつも俺を気遣って、殊更に静かにしてくれてる妻。
まさに良妻という言葉が、ピッタリなのだ。
なのに、そんな彼女がこんなに慌しくやって来たものだから。
何かあったのではないか、と俺は内心ドキドキしていた。
すると。
「あのね、聞いて!今外で、お花の蕾を見つけたのよ!」
考えること、凡そ1分間。
そして。
「マジで!?どっち側だよ」
「家の裏手の方なの。食事を済ませたら、行きましょう」
「イヤ、すぐ確かめたほうがいい!案内してくれ」
俺が慌てて上着を着込むと、ティナは心得たように頷いて。
俺たちは連れ立って、家の裏手から外へ出た。
──花の蕾の目撃なんて、いつ以来の事だろう。
世界が一度崩壊したあの日から、俺も彼女も全く見なかったそれ。
大地の復興を示す、証拠。
「ほら!」
「おわ、マジだ!すっげぇ!」
ティナが示した低めの樹木に、点々と紅色の蕾。
既に開きかけた花もあって、微かに甘い香りが漂う。
「良かったなあ、こりゃエドガーに教えてやったら喜ぶぜ」
「本当ね。世界はちゃんと、元に戻ろうとしてるのね」
俺たちは互いに頷き合い、花の蕾を見つめる。
久々に感じた、春の気配。
やっと手に入れられた、平和なひと時。
もう。
絶対に、失わないと、誓おう。
*
もうすぐ、春。
それは、希望の季節。
─────
春っぽいSSということで、イメージは桜か梅の蕾。
野生の花が再び咲くようになるまでには、時間がかかると予想。
お粗末様でした…。