きい、きい。
楽しげに音を立てて、揺れるぶらんこ。
*
モブリズの子供たちが、少しでも楽しめるように、と。
「この辺の廃材で、何とかなりそうだな」
エドガーにしては至極まともな提案をしたのが、2日前。
そして。
作業着姿のエドガーと、いつも通りタンクトップ姿のマッシュが。
肩を並べ……るにはやや身長差が開いているが、真面目に作業を進めていた。
「マッシュ、ここもしっかりロープで縛り付けてくれ」
「わかったよ兄貴、こんぐらいか?」
フィガロ兄弟の隣に佇んでるのは、これまた作業用のラフな服装に衣替えし、台座の作業を終えたセッツァー。
飛空艇を自前で整備する程の男だけに、こいつも存外器用なうえにお人よしで、肉体労働も厭わないってのがミスマッチで面白い。
「相変わらず馬鹿力だよなあ、アンタ……って、おいコラ、リルム!お前何してんだよ」
慌て気味に声を飛ばすセッツァーの視線の先には、愛用の絵筆を巧みに操るリルムの姿。
そして、傍らでそれを微笑みながら見つめるティナ。
「わかってないねぇキズ男!せっかくだから、可愛くペイントしてあげてんの!リルムの力作なんだかんね!」
「本当……素敵ね、リルム」
「さすが一流の画家だなあ」
胸を張る彼女に賛辞を送るのは、ティナと俺。
すると。
「おいロック!お前の出番だ、上にロープを頼む!」
「へいへい、任せとけよっ!」
エドガーの召還に応じ、俺は小走りに駆け出した。
作業時間は一時間程度。
そして、完成。
「まあ……ぶらんこね!とっても素敵だわ」
「ありがとう。子供たちが喜ぶ」
身重のカタリーナと、彼女を労わるディーンが目を細める。
廃材を利用して作られた、数名で乗って遊べる大きなぶらんこ。
リルムによって様々な草花の絵を施されたそれが、滅びを待つ世界の中でも生命の息吹を感じさせるかのようで。
子供達は瞳をきらきら輝かせ、さっそく遊びを満喫していた。
「わぁー、すっごく面白いや!」
「きゃあぁ、速いわ!」
「えー、もっと速く漕ぎたいよぉ」
村内に響く歓声は、荒れた世界にそぐわぬ程に、温かく。
俺たちの心も、満たされた。
あれから、10年。
今もモブリズの村に、ぶらんこが揺れている。
「……ロック、ここにいたの?」
遠慮がちに声をかけられて目を開けると、俺を覗き込むティナの顔が超アップ。
10年の年を重ねて、大人の女性として成長を遂げた彼女は、ますます美しさに磨きがかかったなあ、とぼんやり思う。
「ティナ」
「もうすぐお昼御飯よ。今日は貴方の好きなソテーにしたわ」
「へぇ、美味そうだな!サンキュー」
俺がぶらんこから飛び降りると、ティナが眉間に皺を寄せる。
「駄目よロック、危ないわ」
「何言ってんだよティナ。このトレジャーハンターのロック様が、この程度で怪我なんてするわけないだろ?」
「ええ、貴方は勿論何ともないのはわかってる。でも、子供たちが真似をしては困るわ。だから、自重して」
やんわりと俺を嗜める、困ったような笑みのティナに。
俺は「……悪い」と素直に謝罪した。
俺とティナ、そしてあの戦で親を失った子供たちと共に、このモブリズに暮らしてから、既に10年。
気づけばかつての子供たちは成長し、独立して。
俺たちは夫婦となり、3人の子どもにも恵まれて。
ささやかながら、幸せで。
最近の悩みは、俺の真似をすると言って利かない末のボウズの躾、なんていう状況。
「頼むから、坊やがいるときには絶対危ない事しないで?また真似をするって利かなくなって、大変だから」
「気をつけるよ」
自分たちの家までの道のりを、何の変哲もない日常会話を楽しみながら、手を繋いで歩く俺たち。
平凡だけれど、かけがえのない毎日。
そこにはいつも、あのぶらんこ。
*
かつての日々の、子供たちの安らぎ。
そして、今の俺たちの安らぎ。
ぶらんこが、揺れる。
+++++
久々に未来捏造設定に基づいた一作を投稿。
春っぽい文章を目差したら、不可解なものに(汗)
桜の季節には遅いでしょうからねぇ…。
と申しましても、実は私が住まう地域はそろそろ桜開花です。
前の釧路よりはこれでも時期が早いってのは内緒ですが。