『melt with...』
「きゃッ…」
小さな悲鳴が響いた。
突然彼に抱き寄せられ、胸の中に閉じ込められる少女。
ティナは一瞬何が起きたか分からず頭が真っ白になった。
彼は何を言わず、只、強く彼女の体を抱きしめる。
「ロック……?」
彼は何も答えない。腕の力を込めるばかり。
彼女はそのままされるがままになった。
静かに時間は流れる。時を刻む音と互いの心臓の音以外に何も聞こえない。
… どうしよう。なんだか、体が変だ。
彼の胸の鼓動が聞こえる。体が熱くなる。どうしてか胸が苦しくなる。胸の高鳴りがどんどん大きくなって、どんどん早くなって、彼に聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまうぐらいに自分の心臓の音が聞こえる。
「ティナ…」
知らない彼の声に心臓が跳ねた。
耳元で囁かれる彼の声。その声は、とても低くて、とても甘くて。聴いたことのない彼の声が体の中に響くようで。燃えるように顔が、体があつくて。どうしようもないぐらいに胸の苦しみが強くなって。
「ティナ……ッ」
それは、彼女を欲する男の声。
ゾクリッと、体が震えた。
「ロック……」
答える言葉が見つからなくて、ただ彼の名前を呼ぶ。
胸の奥で、彼女の心にまた別の新たな感情が生まれた。
…どうしてだろう? 彼のこの声を聞いていると…。
なぜか、私は…わたしは……。
――全てを彼に委ねたくなる――
「ロックぅ……」
彼女の口から紡ぎ出た声も、また彼女の知らない声だった。そのことに少しだけ驚く。それは紛れもない、彼と同じ、女の声。
胸の中で膨らみ続ける未知の感情をどうすればいいのか分からずに戸惑いながらも、しかし求めるようにティナは彼の体に腕を回す。
… これも愛なのだろうか。私の中にあるこの美しくて醜い感情も。
そうだというのならば、愛とはなんて強くて、激しくて、狂おしくて、ドロドロとしていて、とても醜悪で、でも何にも代えがたい、素晴らしいものなのだろう。
知らなかった。私にもこんな感情があるだなんて。
彼を独り占めしたい。ずっと彼の傍にいたい。私の心がこんなにも乱されるのは、きっと彼だけ。
――嗚呼、私だけの貴方…
離れたくない…。
「ティナ…」
渦巻く感情に値するだけの言葉がみつからなくて、ありったけの思いを乗せて名を呼ぶ。
彼の首に絡まる彼女の細い腕。さらに強くなる彼女の甘い香り。さらさらと零れ落ちる彼女の翡翠の髪。彼とはまるで違う柔らかい華奢な彼女の体。自分だけに囁かれる甘く狂おしい彼女の声。
全てが、全てが愛しい。
――俺の、女だ――
誰にも渡さない。胸の内に醜い独占欲が膨れ上がるのを感じて彼は心の中で嘲笑する。
彼女は軽蔑するだろうか。俺の中にこんな感情が存在することを知ってしまえば。
いや、優しい彼女のこと、きっとそれさえも受け入れ包み込んでくれるだろう。その姿に俺は惹かれたのだから。
ティナを、愛している。
できるならば、このまま彼女を閉じ込めて自分だけの物にできたらいいのにと、歪んだ願望を抱いてしまうほどに。
―― 何があっても、離さない
君がいなくなったら、俺は……。
ロックの抱きしめる腕の力がまた強くなる。
その力は彼女には強過ぎて少し痛かったけど、彼の胸の中はとても心地よくて、その痛みさえも心地よくて。鼓動も体温も二人の全てが溶け合い一つになるような不思議な感覚。
抱きしめあう。
只それだけで、心が満たされていった。
FIN.
あとがき
人生初の絵チャに参加して、萌えを刺激され執筆した作品です。
大人の雰囲気を目指して書いたのですが、見事に撃沈。む、むずかしい…!
久々に投稿した作品がこんな駄作で申し訳ないですが、閲覧してくださる皆様が楽しめていただけたら幸いです。
ありがとうございました!