――見上げた空は青いのに、景色はどこまでも赤かった――
『紅葉の下で』
夏が過ぎ秋が深まったこの季節。ロックはティナと共に野宿で使う食材を探しに来たのだが。
「……」
「……?」
振り返ると、ティナがずっと空を見上げたまま動かなくて。彼女が何処かを見つめたままじっとしているのはよくあることだったから心配はしなかったけど。少し待っても彼女は動かず、あまりにも長い時間そのままだったから流石に首をかしげた。
「ティナ?」
呼びかけてもティナは答えず空を見つめたまま。
「ティ…」
「赤い……」
「え?」
「こんな綺麗な赤も……世界にはあるのね」
その言葉にロックは複雑な思いを抱いた。赤は彼女にとって特別であり忌まわしい色彩だ。かつて帝国の殺戮兵器だったあの頃の記憶を呼び覚ます、悲しい色。
「ずっと…赤はあの焔の色だけだと思っていた……」
うわ言のようにティナは語りだす。
風にかき消えそうな小さな声は何故か彼の耳届いた。
「でも……世界は、こんなにも…綺麗なのね……」
その言葉に、たまらずロックは彼女を後ろから抱き締めた。彼の腕の中にすっぽりと収まる華奢な少女がこれ以上悲しまないようにと願いを込めて。
「ロック……?」
「…る……から」
「え?」
「俺が守る、から…!」
吐きだした言葉は、繰り返しに聞いた言葉。それは彼女にとって救いの言葉。それは彼にとって呪いの言葉。でも今は、それしか言えなくて。
「…泣いてるの?」
顔は見えないのに、何故かティナはそう思ってしまった。彼は何も言わずにただ抱きしめ続ける。
(泣いているのは……君のほうじゃないか…!)
じっと空を見つめる彼女の顔はどこか悲しげだった。あまりに儚げなその姿は、このまま消えてしまうのではないかと怖くなってしまう。
彼女は、ここにいるのだと……その温かさを確かめたくて、ロックはより一層腕に力を込めるのだった。
二人を見守るのは紅く染まった木々だけ。
ひらりと、揺れる炎の様に、一ひらの紅い葉が宙を舞った。
~FIN~
あとがき
秋らしいSS 第一弾。
すっごく短い作品ですが、予想外に上手くまとめることができて、私的にわりと気に入ってます。
…でもやっぱり撃沈した気がしないまでもない…。
遅くなったけど、ティナ誕生日おめでとう!