【注意書き】
本作は金木犀(キンモクセイ)をテーマにしたSSです。
…しかしFF6の世界に金木犀があるかどうか分からなかったので、現代パロディにしました。(汗)
そう言った作品が苦手な方は閲覧を控えてください。お願いします。
大丈夫だと仰る方はこのままスクールしてご覧になってくださいませ。
拙い文章ですが楽しんでいただけたら幸いです。
……ちなみに二人は同棲中の設定です。←
では、どうぞ。
* * * * *
思ったよりも早く仕事が終わり、温かい我が家へ少し足早にいつもの帰り道を歩いていると、ふと鼻をくすぐった芳しい香りに思わず足を止めた。
見上げてみると、香りの正体はすぐに見つかった。
「金木犀(キンモクセイ)か……」
彼は無意識のうちに呟いていた。夕焼けに照らされた小さな黄金色の花々からは今もあたりに華やかな香りを漂わせている。
もうそんな季節になったのかと、時の流れる速さに驚きながら彼は顔をほころばせた。
暫くの間このままこの香りを楽しんでいたいけれど、これ以上あの子を一人で待たせるわけにはいかなくて。
少々の名残惜しさを感じながら、彼は再び家に向かって歩を進めた。
『金木犀の香る君』
すっかり日も暮れたころ、漸く待ちわびた我が家に着いた。ドアを開けると暖かい空気が身を包みこむ。秋も深まり肌寒さを感じていた彼にとってそれはとてもありがたく、安らぎと帰って来た実感がじんわりと体に広がってゆった。
「ただいま」
いつものようにお約束の台詞と一緒に中に入ると、奥からパタパタという足音が聞こえてた。彼女の心をそのままに乗せたようなその音に、自然と笑みが浮かぶ。
「おかえりなさい、ロック」
部屋に上がると、出会ったころと変わりのない笑顔で、彼女は出迎えてくれた。
いつものことながら、この笑顔を見ると仕事の疲れなんて一気に吹き飛んでしまうようだ。
「ただいま、ティナ」
同じく彼は混じりけのない笑顔で返す。一緒に住み始めたころからずっと続くやりとりに彼女はより一層笑みを深めた。
「今日はいつもより早かったのね」
「ああ。思ったよりも早く片付いてから、急いで帰って来たよ」
「ふふっ」
取り留めのない事を話しながら居間へと進む。口元に手を当て微笑むティナは少女のように可愛らしくて。出会ってから数年もたつというのにいまだに彼女に恋をしているかの様な自分の心に、彼はこっそり心のうちで苦笑した。
「それはよかったわ。ちょうど晩御飯ができたところなの。できたての方が美味しいでしょう?」
「そっか。だから旨そうな匂いがしてたんだ」
「ええ。今日はあなたの好きなものを作ったの」
「ほんとか? やった」
素直に喜ぶ彼の姿に、取り留めもない事だけど彼女は嬉しくなる。
準備をするから待っててね、と台所へ向かおうとするティナの言葉に頷こうとして、けど鼻を掠めた良い香りにロックは動きを止めた。料理の匂いとは違うその香り。しかしそれはどこかで嗅ぎ覚えがある香り。
思考を巡らして直ぐに答えを思い出したロックは、踵を返した彼女を後ろから抱き締めた。
突然の彼の行動に、きゃっとティナは可愛らしい悲鳴を上げた。
「ろ、ロック……?」
「……。……いい香りだ……」
「え?」
「今日のティナ、すっごくいい匂いがするんだけど……」
耳元でささやかる熱に浮かされたような彼の声に、ティナは胸が一つ高鳴った。
すぐには分からなかったけど、暫しの思考の末、彼の問いを理解した彼女はゆっくりと答える。
その頬はどこか赤く。
「あのね……シャンプーを、変えたの」
「シャンプー?」
「うん。キンモクセイの香り……私、好きだから…」
「そっか……」
「うん……」
静かにロックは得心する。彼女のふわふわの巻き毛からは、今日思わず足を止めて嗅いだ金木犀の香りがした。まるでティナ自身が金木犀の樹そのものになったかのようにあたりに香しく漂わせていて。
あの時は断念したけど、今は気にかけることなど何もなく。めいいっぱい、彼だけの花を腕に閉じ込めてその香りを満足するまで堪能する。
始めは驚いた彼女も彼の温かさが気持ちよくて、徐々に広い胸に身を委ね始めた。
しかし……
「すー……」
「… え?」
「はー……」
「ひゃっ……」
うなじにかかった熱い吐息に、思わず体を震えさせてしまった。一瞬、何をされたのか分からなかったが。
ロックは彼女のうなじに顔を押しあてまた鼻から大きく息を吸い込む。今度はわざとティナにも聞こえるように音まで立てて。
流石に、彼女も理解した。
「や、やだぁ! ロック駄目、嗅いじゃだめぇぇぇ!!」
「どうして? だってこんないい匂いなのに……」
「だ、だって……は、恥ずかしいよ……」
「そうか? 別に減るもんじゃないし……」
「そ、そういう問題じゃ……」
平行線の言い争いあいを続ける間にも、どんどん首筋に彼の吐息がかかって、そのたびに体が跳ねてしまう。
しかもだんだん力が抜けてきて。まずい、このままでは彼にされるがままになってしまう。
なんとか状況を打破しようとして忘れかけていたご飯のことを思い出し、それを理由にティナは今の状態から抜け出そうとした。
「だめ……ご飯、冷めちゃう……」
「別にいいじゃんか、ご飯なんて」
「だめよ…せっかく、ロックのために頑張ったのに……」
「それは嬉しいけどさ。でも、俺としては……」
「……?」
「ご飯よりも、ティナを食べたい」
「――ッ!! ば、バカァ!!!」
その台詞に危機感を感じたティナの必死の抵抗と彼が腕の力を緩めた隙に、するり猫のようにティナは逃げ出した。振り返ってこっちをにらんでくる彼女の顔はやっぱり真っ赤で、若干涙目になっていた。そんな顔で睨んでも全然怖くなってなく、むしろ余計に可愛いだけで。
(ああ……ヤバい)
一瞬意識が飛んだ。さっきは半分冗談のつもりだったけど、今本気でこのままティナを押し倒したい。
まぁ流石にそれは色々と問題があるからしないけど。彼は残った理性でかろうじて踏みとどまった。
一方ティナは、ぱくぱくと口を動かしてはいるが、中々言葉は出てこない。
「そ……そ……!」
「そ?」
「そ、そんなことを言う人には、今日のご飯は抜きです!!」
「そんな。それじゃ俺、腹へって死んでしまうよ」
「だ、だってぇ…!」
「ふぅ…… 仕方ないな」
彼はもう一度、今度は正面から彼女を優しく抱きしめて。
機嫌を損ねたお姫様の額に、軽くキスを落とした。ちゅっと、わざと音を立ててみたり。
「ごめんな、ティナ」
「……るい…」
「ん?」
「ロックは……ずるいよ……」
だって、こんな謝り方をされたら、許すしかないのだから――。
長年の勘でティナが何を言いたかったのか分かっているロックは、くつくつと喉を震わせて。
「さ。ご飯、食べようか?」
「……。うん……」
彼らは付き合い始めた恋人同士のように手を繋いで、温かい料理が待つところへと入って行った。
ちょっといろいろあったけれど。
こんな日もたまには悪くない。
~FIN~
余談ではあるが。
その夜、彼は一番のメインディッシュを美味しく頂きましたとさ。
あとがき
秋らしいSS第二弾です。連投すみません……(汗)
誕生日に何もできなくて、ちょっと頑張ってみましたが……反省してます、多分もうしません…。
さて、本作ですが、思った以上に甘く仕上がりました。(笑)ロックが少し変態チックなのは気にしない。
金木犀は私も大好きな花の一つなので、テーマにしたSSが書けて満足です。もう少しうまく書けていたら申し分なかったのですが…駄作ですみません…。
では、ここまでご覧になってくださり、ありがとうございます!
お目汚し、失礼しました!