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「手紙」 シスターM

シンプルな封筒には、俺の名。差出人は、今誰よりも会いたい人。
「ティナ……」
その名を呟くと。もっと、会いたくなった。


     『手紙』


 ───ロックへ。
    お元気ですか?

久々に長期間、モブリズを離れていた俺の元に。手紙が届いたのは、昨日のこと。
宿の主人が、食事と一緒に運んできてくれたそれは。
遺跡の探索が思うように進まず、やや苛立っていた俺の、ささくれ立った心を。
瞬時に穏やかにしてくれた。
俺は、書物机に向かい。探索のための地図を脇に押しやって、手紙を読んでいた。

 ───モブリズの周囲も、すっかり紅葉しています。
    秋の実りも、たくさんあるの。
    子供たちと毎日のように森へ行って、冬の前に収穫しています。
    あなたの好きじゃないものも、あるけれど。
    大事な食料だから、どうか怒らないで。

「うげ……アイツかよ」
ティナが敢えて、名前を挙げなかった『アレ』が群生している光景を、うっかり想像してしまい。俺は表情を思いっきり歪めた。
だけど、あれも大事な食料なのだから、文句なんて言えやしない。
俺の食事にだけは、間違っても入れないで欲しいものではあるが。

 ───この間、マッシュとガウが遊びに来ました。
    ふたりが力仕事をたくさん手伝ってくれて、大助かりだったの。
    修行を兼ねて、もうしばらくモブリズに留まってくれています。
    子供たちにも、ふたりはとっても人気者です。
    ガウは「お兄ちゃん」って呼ばれるのが嬉しいみたい。

「へえぇ……あのガウが、ねぇ」
野生児そのものの、あのガウが「お兄ちゃん」と慕われている図を想像すると。
なぜか、顔がにやけてきた。
確かに男手がディーンだけだと心もとないところもあるし、あのふたりなら、安心だ。
ティナに手を出すこともないだろう。
俺は、心の中に、妙な安心感を覚えた。

 ───ふたりはとっても、ロックに会いたがっています。
    仕事が終わるまで待っててくれるって。
    でも、本当は。
    私が一番、あなたに会いたくて、仕方ないです。

「ティナ……」
俺だって、会いたくて仕方ない。
心はずうっと、離れずに。寄り添っている気が、しているけれど。
それでも、今すぐに。彼女をこの手に抱き締めたかった。
愛しさが、募る。

 ───ごめんなさい、わがまま言っちゃって。
    でも、本当の気持ちです。
    だから、我慢できなくなったら。私はきっと、会いに行きます。
    そのときはどうか、怒らないで。

    では、お仕事頑張ってください。

              10月12日 モブリズにて  ティナ

「10月……かあ」
俺は呟いて、天井を仰いだ。本当は、今頃とっくに、モブリズへ戻っているはずだった。
だって、今日が彼女の誕生日だったから。
あの仕事さえ片付けていれば、ちゃんと皆で、祝ってやれたはずなのに。
何よりも、君に寂しい気持ち、させないですんだのに。
「ごめんな、ティナ」
謝罪の言葉が、口をついた。

「どうして?」
独り言に、予想外の返答があり。俺は驚愕の余り、椅子ごとバランスを崩した。
「うわわっ!」
がたーん!
派手な音とともに、俺は床にひっくり返り。
「ロック! 大丈夫?」
俺を見下ろす、懐かしい瞳を。見上げる格好となっていた。
「………ティ、ティナ、どう、して……?」
目の前に、愛しい人の姿。
真っ白な肌も、緑の巻き毛も。エメラルドの瞳も、間違いなく本物の、ティナ。
俺は驚きのあまり、椅子ごと倒れたまま、動けなくなっていた。
「……ごめんなさい」
そっと目を伏せるティナ。長い睫毛が、ふるんと揺れた。
「でも、本当に会いたかったの。だから、ね……セッツァーにお願いして、来ちゃった」
「つーわけだ。良かったな、色男」
唐突に、不機嫌そのものの声が。俺たちの間に割って入った。
「!?」
慌てて起き上がる俺の視界には、ドアのすぐ横の壁にもたれかかる仏頂面のセッツァー。
「全く、どいつもこいつも、俺とファルコンを運送屋代わりにしないでもらいてぇな」
「ごめんなさい」
セッツァーに向き直り、ティナが静かに頭を下げた。
そんな彼女を見て、セッツァーは。思いの外、穏やかに微笑んで。
「ま、ティナは特別だ」
信じられない台詞を吐いた。
「?」
ティナが、首を傾げる。
「お前さんはいつも自分を後回しにするだろ? たまにわがままのひとつぐらい言ったところで、誰も怒ったりしねぇよ」
そう言うと。
セッツァーはくるり、と向きを変えて。後手に、すっと手を上げて。
「じゃな」
一言だけを残して、立ち去ろうとした。その背中に、ティナが急いで声をかける。
「セッツァー、あの……ありがとう」
ティナの言葉に、彼は一瞬動きを止めて。上げていた手を、ひらひらと振って。
何も言わず、立ち去った。

そして、俺とティナのふたりきり。俺は改めて、ティナを見つめる。
「ティナ……」
名前を呼ぶと、愛しさが溢れ出てきて。もう、止まらない。
たまらず、彼女をぐいっと抱き寄せた。
「ロック……」
俺の腕の中に、すっぽりと納まる体。抱き締めただけで、安堵感に包まれる。
「びっくりしたよ」
「ごめんなさい」
「いいや。むしろ、嬉しかったから」
「……本当? 良かった」
ティナの声が、俺の心に。じんわりと、染み入ってくる。
荒れた大地を潤すように、俺の心を潤す声。
そして俺は、思い出した。今、君に言わなきゃいけないこと。
「───ティナ」
「なあに?」
「誕生日、おめでとう」
「! ロック……ありがとう」
俺たちは、互いの存在を確かめ合うように。
そして、互いの想いを、温もりごと伝え合うように。
長い間、動かなかった。

     *

「さて、俺たちはこれからどうするんだ?」
セッツァーが戻ったファルコンの船室内には、ティナの誕生日を祝おうと、かつての戦友たちが顔をそろえていた。
「しばらく、ふたりきりにさせておいてあげましょう? ロックはともかく、あのティナが珍しく言い出したことですもの」
セリスが微笑んで、全員が頷いた。
「そうだよ! ドロボウの誕生日なら、邪魔してもいいけど、ティナだもんね」
「こら、リルム! そんなことを言うもんじゃないゾイ!」
リルムが口を挟み、ストラゴスに窘められた。
「まあまあ。それにしてもティナ殿のご所望が『ロック殿に会いたい』とはな」
カイエンが唸る。
「ティナらしいプレゼント希望、ではあるけどな」
マッシュが微笑んだ。
「そうだな。まあ、彼女を囲んでのパーティは、明日にでもゆっくりと開くとして、今日はふたりのために皆でここで乾杯としようか」
多忙な公務の間を縫って、しっかりこの場にいたエドガーのこの言葉に。
全員、異論などあるはずもなかった。

     *

シンプルな封筒には、君の名前。差出人は、俺。
そして俺は、机に向かい。その中身を、書いている。
俺に会いに来てくれた、大好きな君が、寂しくないように。
今の俺にできる、ありったけの、愛を込めて。

 ───ティナへ……

Title
「手紙」 シスターM
Posted
2003/10/18
Category
ロクティナ・SS

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