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「戦うために」 シスターM

ファルコン号の整備のため、俺たちは、久々の休息を味わっていた。
かといって、暇かといえば、そうでもなく。
買出しがあったり、船の整備があったり、情報収集があったり。
ぼうっと自堕落に過ごしている、おめでたい奴は存在していないらしい。

今、街での情報集めから戻って来て休息中の、俺の目の前では。ティナとカイエンが、練習用の剣を交えている。
「えいっ!」
ティナが声とともに、カイエンへ斬りつける。カイエンはまともに急所を突かれた。
「くっ、何のまだまだっ!」
さすが、ドマでも一番の剣士だけあって、カイエンのスタミナは相当なもの。
一度大きくバランスを崩しつつも、再度剣を構えて立ってみせる。
でも、ティナは動じない。
「はあっ!」
ティナの剣が、一閃する。カイエンががくり、膝をつく。
「くわっ! ……ま、参った、完敗でござる」
カイエンから、降参の声。ティナは呼吸を整え、剣を置く。
「カイエン、大丈夫?」
「うむ、心配は無用でござる。しかしティナ殿は誠にお強い。惚れ惚れするでござる」
カイエンは立ち上がり、ティナを見やる。
「このような華奢な体のどこに、あのような剣技が潜んでおられるのか……」
しみじみ呟くカイエンに、ティナは困ったような笑みを見せた。
「これしか、覚えることがなかったから」
その呟きは、彼女の内に潜む闇を、思い起こさせた。

彼女にとって、それは帝国での、忌まわしき過去。兵士として、いや最強の兵器として帝国のために戦わされていたときの過去、そのものだったのだろう。
実際、ティナは強い。間違いなく、俺よりも。
ナルシェで彼女を助け出してから、フィガロまでの短い間であっても、それをまざまざと見せ付けられた。剣の構えからして、俺とは全然違う。俺が旅のなかで実戦で覚えたものと違い、彼女の剣技は正統派。しかも天性のスピードで、腕力が劣る部分をカバーしており、魔導の力抜きでも立派に帝国兵と差しで渡り合うことができそうだった。
「ティナ、今度は俺と勝負してもらえっか?」
カイエンが「休憩するでござる」と言って去った後。俺は軽い調子で、素振りをしていたティナに話しかける。
「え? ロックと?」
彼女はとても、意外そうな表情。
当然だろうな。実際俺も、彼女と剣の稽古なんて、したことなかったから。
「たまにはいいだろ。俺も少しは上達しとかないと、決戦のとき役立たずになっちまうのもイヤだしな。頼むよ」
やや大袈裟に、拝むような格好をしてみると、彼女はしばし沈黙して。
「───ええ」
やがて、静かに頷いた。
そして、俺は練習用の剣を手にして構える。重さを確かめるため、少し素振り。
思ったより、その剣は重量もあった。先程の二人の剣さばきが、信じられないほど。
「よし」
「ロック、本当に大丈夫?」
ティナは、心配そうに尋ねてきた。
「ああ、もちろんだ。カイエンより手ごたえはないかもしれないけどな、そんなにすぐ負けるほど弱くはないつもりだぞ?」
ちょっとだけ見栄を張り、胸を張って答えて見せると。
「……そうね」
ティナは少しだけ、笑顔を見せてくれた。

「はああっ!」
仕掛けたのは、俺。彼女がおそらく避けてくれると予測して、剣を振り下ろす。
案の定、ティナはしなやかな身のこなしで、俺の一撃をかわす。そして、俺を見つめる。鋭く真剣な、戦士の瞳。
こんなときでも、彼女の瞳は宝玉のように美しく、俺は一瞬見とれそうになった。
しかし、慌てて気を取り直す。
「はっ!」
今度はティナが仕掛けた。素早い動きで俺の死角に回り込み、最初の攻撃。
しかし、先程のカイエンとの稽古で、動きの予測がついていた俺は、難なくそれをかわす。
「!」
ティナが一瞬、動きを止める。今だ!
「もらった!」
俺は素早く、持っていた剣を利き手とは逆に持ち変えて、不意打ちを食らわせる。
「きゃ!」
ティナにもこれは、よけきれなかったらしく。彼女が大きくバランスを崩した。
その様子に、俺のほうが却って動揺する。しかし。
「まだまだよ!」
ティナは素早く体制を立て直し、更に俺に向かってきた。
「よおし!」
俺も急いで剣を持ち直すと、彼女の剣を受けた。腕に振動が走る。
「くっ……」
「くうっ」
俺たちの、息が詰まる。腕力では俺が勝るが、力の受け流し方はティナが上。
しばし、俺たちの時間が止まった。再び動いたのは、ティナ。
「はああっ!」
「うわあっ!」
いきなり剣を外されて、俺は大きくバランスを崩した。そこに彼女の一撃。
見事、俺の体は大地に沈んだ。急激に疲労を感じて、そのまま大地に仰向けになる。
「……参りました」
「ロック、大丈夫?」
ティナが膝をついてしゃがみ込み、俺の顔を覗き込む。かなり心配そうな顔。
「大丈夫、大丈夫。それにしてもティナ、やっぱり強いなぁ」
俺は苦笑混じりに言った。すると、ティナの表情が曇る。
「強くなんて、なりたかったわけじゃ、なかったのにね」
悲しげに、答えるティナ。その瞳が、揺れる。
「ティナ……」
俺は何と声をかければよいのか、わからない。

「おや? ロック、こんなところで昼寝かい?」
不意に、予想外の声。
「エドガー。ファルコンの整備、もう終わったのか?」
俺は上半身を起こして、いつになく簡素な服装で歩いてきた奴に答えた。
「ああ、私の分はね。セッツァーは、重要な部分はほとんど自分でやろうとするから、まだもう少しかかるとは思うが」
たった今まで機械をいじっていたんだろう、服には油が多少こびりついていたが、それでも威厳を失っていないこいつは、さすが一国の王だと思った。
「ほう? 珍しいな、ロックが剣の稽古とは」
俺たちの格好を見て、エドガーは、にやりと笑みを浮かべる。
「どうだい? ティナ、ロックは多少なりとも君と対峙できたかい? ま、たぶんティナの勝ちだったろうけどね」
俺に対する口調とは打って変わって、穏やかな口調で話しかけるエドガー。
ティナは多少寂しげな笑みで、こくりと頷く。
「やはりティナのほうが強いんだね。面目立たないな、ロック」
エドガーが苦笑しつつ、俺に話しかけると。
「私、戦うことしか知らなかったから……」
ティナは、俯き加減に答えた。
「ティナ」
エドガーが、優しく彼女に声をかける。ティナは顔を上げた。
「戦うことは、今も嫌?」
「好きではないわ。でも今は、こうしないとみんなを守れない」
彼女は、エドガーの目を見て、はっきりと答える。瞳には、強い意思の光。
エドガーは、そんな彼女の様子を確かめると、満足げに頷いて。
「ティナは戦いで、人を傷つけるのが嫌なんだろう? でも、力なき正義もまた、無力なのだよ。矛盾した考えではあるのだが、ね」
一旦言葉を切って、エドガーは続ける。
「好き好んで戦いたいわけではないのだよ、君もロックも、他のみんなも。でもみんな、自らが信じるもの、大事なものを守るため、剣を取った。ティナも、そうだろう? だったら今、自分が人より強いのは、弱い誰かを守るためだと思わない?」
「エドガー」
ティナは、じっと目の前の男を見つめていた。
「とりあえず、ティナ。ロックをもう少し鍛えてやってくれよ。せっかく君に『俺が守る』なんて言っていたのに、こんな調子じゃかえって君がロックを守ることになりかねないからね」
「おい、エドガー!」
俺が抗議の声を上げるまえに、エドガーはさっさと行ってしまった。

「全くあいつは……。でもそうだよな」
「え?」
俺はぱっと立ち上がった。先程までの疲労感は、既にない。
「こんなんじゃ、ティナも世界も守れないってこと。よし、ティナ、もう一回やろうぜ」
「ロック」
戸惑い気味な彼女に、俺はウィンクひとつ。
「大丈夫だって。それに俺、ティナに約束したからな、守るって。ちゃんと約束守れるように、まずは鍛えないとさ」
「───うん!」
ティナは微笑みながら頷き、練習用の剣を再び手に取る。
しかし。
「おお、何とロック殿も稽古でござるか! ではまず、拙者とお手合わせ願おう!」
これ以上はないほどに、絶妙なタイミングでカイエンが戻ってきた。
「え、あ、いや……」
思わず逃げ腰になる俺。ティナも、目をぱちくりさせている。
「お願いでござるロック殿、是非拙者と! 貴殿の身のこなし、是非とも間近で拝見したいのでござる! 是非に!」
カイエンは、凄い迫力で俺に詰め寄って。
「ロック、一度手合わせしてみたら?」
俺のうろたえ様が、面白かったのか。ティナは笑顔だった。
「よ、よし! こうなりゃやるぞ。カイエン、行くぜ!」
「望むところ!」

かくして。
俺はその日、こてんぱんにのされたことで、日ごろの鍛錬不足を痛感し。
マッシュに「一緒に修行すっか?」と誘われたのはさすがに断ったものの、毎日の鍛錬は欠かさず行うようになった。
ただし。

「はあっ!」
「わ、うわぁ!」

どうしても、ティナには勝てないらしい。

 ─────

昔書いたものですが…ロックとティナの手合わせが、もっとうまく表現できればよかったなぁ、と泣けてきます。
実際に剣の腕を比較したら、きっとカイエンが一番なのでしょう。
あとはセリスとエドガー、ティナがほぼ互角ではないか?と勝手に想像しておりますが。

ロクティナ色は薄いですね。
書きたかったことは、王様に語ってもらっています(オイ)。恐らく争いを好まないはずのティナがどうしてまた、剣をもつようになったのか。ちょっと漠然としていますが…。
いずれ、またこの類の話はきちんと書きたいと思っていたり(照)。

Title
「戦うために」 シスターM
Posted
2003/11/19
Category
ロクティナ・SS

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