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「緑に祈る」 シスターM

最近、ティナが暇を見て何か作っている。
以前は、俺と他愛無い話なんかしたり、子供たちと遊んでたのに。

「ティーナ」
「なあに? ロック」
俺は、今日も一所懸命作業中の彼女に声をかける。
机の上には、緑の葉っぱと、木の実とリボンとベルがあって。
ティナの手は、小枝や木の蔓を輪にしていた。
「何作ってんだ?」
尋ねる俺に、にっこり微笑んで。
「リースよ。これ、去年セリスに教わったの」
まだ飾り付けられていない、茶色いままのそれを掲げた。
「リース? クリスマスに玄関に飾る、あれ?」
俺の声に、彼女は少しだけ、頷いて。
「クリスマスのリースって、クリスマスの後の新年がいい年であるように、っていう祈りのためのものなんですって。リボンの赤は太陽と生命力で、木の実は大地の実りの象徴。
このとげとげした木の葉やベルは、悪しき者を退けるんですって」
ティナにしては、珍しく。熱の入った口調で説明してくれた。
「ふぅーん」
俺の相槌に、少々不満げな表情をしたが。すぐ、元に戻り。
「ここでの暮らしも、もう少しだから、せめてみんなが元気でいられるようにってお祈りのつもりで作ってるの。みんながそれぞれ、別の場所に行っても元気でいられるように」
笑顔で、そう付け足した。

モブリズは、もともと辺境に位置していたためか、訪れる者もなく。
子供たちは日に日に成長していったけれど、教育を受けさせることもなく。
…皆、幸せだったのだろうけど。
それでも『人と交わるのは大事なことだから』と、ティナは立ち上がった。
エドガーを介して世界中の人間と接触を図り、子供たちを養子として迎えてくれる先を探し出したのだ。
その決断に、俺は何も言わなかった。彼女が決めた、ことだったから。
ディーンとカタリーナの一家も、もう少しで大きな街へ行くことに決めて。
ティナは、ここに残る。…俺も、一緒に。

俺としては、どこに住んでいようと関係ない。
ここ何年か、旅が基本の人生だった俺が。定住することさえ不思議だったが。
ティナとなら、一緒にいたいとそう、理由もなく思った。
ティナも、同じ気持ちでいてくれるらしく、俺たちは一緒にいる。
…仲間として。男と女、ではなくて。
そして、彼女は。街を嫌う。どうしても目立ってしまうから。
あの大戦が終わり、世界が平穏を取り戻した後でも、なくならなかった緑の髪が。
端整な、美術品を思わせるほどに整った容貌が。
…強く、儚い光を湛えた瞳が。
たまらなく、人を引き付けて離さないから。

「ねぇ、ロック」
ティナが手を止めて、俺の方に向き直る。
「ん?」
返事を返した俺を、じっと見つめる一対の宝玉。
…ほら、また見とれてる俺がいる。
「みんな、幸せに…なれるかな」
ティナはぼそり、と呟いた。共に村で暮らした、大切な人たちを思って。
俺は彼女に近づいて、そうっと頭に手を置く。
ぽん、ぽん。優しく叩くと、ふわりと髪が俺の手にかかる。
「大丈夫さ。奴らはきっと、幸せになる。それに、幸せってのは待ってるだけじゃ掴めない。あいつらが、自分で見つけるもんだろ?」
「…そうね」
俺の言葉に、静かに頷いて。
ティナは、小春日和の日溜りの如く、優しげに、幸せそうに、微笑んだ。

彼女の祈りを、俺の願いに重ねて祈る。
どうか、みんな、幸せに。

ティナの優しさが詰まったリースを、どうか覚えていて。

Title
「緑に祈る」 シスターM
Posted
2003/02/28
Category
ロクティナ・SS

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