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「旅立ち」 シスターM

 今、旅立つ。
 未来をつくるため。
 未来を壊すため。

       *

「ティナ」
扉の外から、セリスの声。
「準備はいい?」
ノックと共に、静かに響く。
「ええ」
私は答え、ぐるりと部屋を見回した。

……ここに。モブリズに来てからずっと、この部屋で夜を過ごした。
時には、戦う力を失ったことに悩み。迷い。泣いて。怖れて。
子供たちの優しさに、戸惑い。笑い。戯れて。感謝して。
堪えきれない悲しみに、涙止まらない子供たちを、抱き締めて眠ったこともあって。
今はそれさえも、懐かしく思われて。
でも。
もう、決めたから。
もう、戦うことに、決めたから。
私は剣を手にして、感触を確かめると。
扉のノブに、手をかけた。

みんなが待つ部屋に入ると、一斉に視線が注がれる。
でもそれは、懐かしい温かみがあって。
向けられる笑顔は優しくて。
私が最初に、安らぎを見出した場所は、確かにここだった。
そう、確信できた。
……あのひとが、いなくても。
「では、出発だ」
エドガーの声が響く。
そして。
飛空艇は、空へと飛び立った。
あの日から、ずっと晴れない空なのに。
空の中は、彼に近づける気がしてしまって。
いつも見上げていた空に、今はただ、近付きたい。
今はずっと、このまま。

「……ロック」

そっと口にした、その名前が。
乾いた風に、さらわれて消えた。

       *

「?」
気のせいか……。
辺りを見回しても、自分を呼んだ者はない。
というか、人影すらない。
「……変だな」
俺は気を取り直して、荷物を背負い。またチョコボにまたがった。
「ほら、頼んだぞ」
「クエッ!」
乾いた大地を蹴り上げて、チョコボは軽快に走り出した。

崩壊後の世界は、地図なんて何の役にも立たない状態で。
それでも懸命に、秘宝の手がかりを探して歩き回って。
歩いた果てにやっと得た、元帝国兵の男の言葉。
『皇帝に二度話しかけろ』。
その真意を探り当てるまで、かなりの時を費やして。
ジドールでやっと探し当てた、『皇帝』。
それは、物言わぬ絵。かつての権威を象徴するが如く、無意味に巨大なカンバスで。
もはやその、躯の痕跡さえも残さない男は、見る者を威圧しようとする。
「………!これが……!」
古びた手紙。
書かれていることが何を言わんとしているのか、理解するのにはさほど時間を要しなかった。

「……着いた、な」
チョコボを降り、俺はその岩山を見上げる。
剣のように切り立った岩山は。来るものを拒絶するかのように、聳え立つ。
確かにここなら、秘宝を隠すには、絶好の場所。

「待ってろよ、レイチェル……」

未だ覚めない眠りにつく、彼女に向かって呟くと。
俺は丈夫なロープを出して、岩山に向かって投げつけた。

       *

「ここだ」
「……」
ロックの噂を追って、着いた先はかつてのツェン近く。
その場所には、皇帝ガストラが古の秘宝を隠したという。
「恐らくはそれが、甦りの秘宝……。あいつがずっと、捜し求めていたものだ」
魂を呼び戻す秘宝。
彼が自分の時間を止めたまま、ずっと追いかけていたもの。
理由はただひとつ、今も眠り続ける人のためで。
それを思うたび、胸が苦しくなる自分を自覚する。
「大丈夫か、ティナ?」
マッシュが私の身を案じてくれていて。
「ええ」
私は努めて笑顔を見せた。

二組で別れて進む洞窟。
思った以上に凶悪な魔物たち、そしてレッドドラゴン。
何よりも、たくさんの……空の、宝箱。
あの人が来ているのだと、もしくは来ていたのだと。
いやでも確信できてしまって。
溶岩をどうにか始末してから、最奥部へと進む。
……そこには。
見慣れた背中と、青いバンダナ。
「!」
声を上げることも忘れ、立ちすくむと。
彼がゆっくり、振り返った。

       *

「ロック……ありがとう」
最後の笑顔、最後の言葉。笑いながら、レイチェルは逝って。
後に残されたのは、彼女の命を得たフェニックス。
手にすると、温かくて。
レイチェルの笑みを、思い出す。
「レイチェル……ありがとな」
空に向かって、呼びかけると。温かな風が、ふわりと吹いた。
そして。
飛空艇に戻った俺を出迎えたのは、全く変わらない仲間たち。
「ドロボウ生きてたんだね!」
「おい、リルム!俺はドロボウじゃないっての!」
悪態をつくリルムの声さえ、懐かしい響きで。
俺の居場所がここだった、と。実感させてくれていた。
「ティナは?」
「甲板だよ」

甲板で、風に吹かれて立っていたティナは。
遠くの空を見つめていた。
声をかけるのが躊躇われるほどに、遠く、遠くを見つめたままで。
初めて彼女を見たときの印象のままに、今も完成された彫刻のような美を誇っていると、改めて感じた。
「ティナ」
声をかけると、振り返り。俺を認めて、目を見開く。
「ただいま」
俺の笑顔を、彼女はじっと見つめて。しばし無言で。
そして、ぎこちなく、微笑んで。
「おかえりなさい」
囁いてくれた。

「俺は決めた」
「え?」
「守るべきものがある限り、戦うって」
「……ええ」
「それからさ、壊せるものは壊すって」
「……?」
首を傾げるティナに、俺は微笑んで話した。
「ケフカに支配されたままの世界なら、壊してしまおう。俺たちは、新しい未来を作るんだ。人が希望を持って生きることができる、新しい未来を」
「……うん」

       *

 今、旅立つ。
 未来をつくるため。
 未来を壊すため。

 人がまだ、希望の欠片を持っているうちに。
 希望の欠片を、育てる力があるうちに。

 望む未来を、得るために。

 ─────

久し振りに直書き決行してみましたが…。意味わからないですね。
申し訳ありません。

Title
「旅立ち」 シスターM
Posted
2004/11/17
Category
ロクティナ・SS

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