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「灯火」 シスターM

   あのひとが、迷わず帰って来るように。
   ここにあかりを、灯しましょう。

       *

空がすっかり、高くなったと思ったら。
風が身を切るような冷たさになって。
冬の訪れも、近いのだろうと悟る。

見上げた空は、今日も青い。
あの戦いで、取り戻した青。
───彼を思い出す、色。

「……」

声に出すと、苦しくなるから。
唇だけで、名を呼んだ。


「今回の依頼は、ちょっと厄介でね」
旅立つ前に、荷物を点検しながら。
珍しく、彼が言っていた言葉。
「厄介、って?」
「呼ばれたトレジャーハンターが、俺だけじゃないらしいんだ」
そう言うと、彼は苦々しい表情になった。
「ちょっとばかり……評判の良くない奴がいるみたいでね」
「そう……」
普段、他人を滅多に批判することのない彼が、ここまで言うのだから。
きっと、相当問題のある人物なのだろうと、推測したけれど。
でも。
これは彼の、お仕事だから。
「気をつけてね」
私に言える、たったひとつだけを。
私は懸命に、笑顔で言った。

「ありがとう」

彼の笑顔は、いつものように、温かかった。


あれから、既に3ヶ月。
秋が深まり、色づいた木々も既に葉を落とし始めているのに。
彼はまだ、戻らない。
手紙を出すにも、連絡先を残さず行ってしまったので。
彼の消息をつかむ事すら、私には難しい。
そして。
「……明日は、貴方の誕生日なのに、ね」
空に向かって、囁いたら。
例えようもなく、寂しくなった。

この日の夜。私はなかなか寝付けなかった。
曇り空の、暗闇で。窓の外には何も見えない。
───これじゃダメ。
これじゃ、彼が。
「……そうだわ」
物置から、松明を探し出すと。玄関の脇に、篝火を灯した。

赤々と燃える炎は、周囲を温かく照らす。
「……これならきっと、迷わずここに戻って来られるわ」
炎に照らされていると、頬が熱くなってきて。
その熱は、彼の手の熱さを、思い出させた。


夢を見た。
青いバンダナが、風に揺れる。
そして彼は。
出かけたときと同じ姿のまま、ほんの少しだけ日焼けして。
『ただいま』
同じ表情で、笑う。
『お帰りなさい』
微笑で答えるのは、私。
そして、手を伸ばして……。

彼は、消えた。


「!!」
がばっと飛び起きて、夢だったのだと自覚する。
心臓の鼓動が高鳴る。
彼が消えた、そんな夢が。私の不安を増大させる。
(大丈夫)
自分で自分に、言い聞かせた。

必ずここに、戻ってくるから。
必ず私に、「ただいま」を言ってくれるから。

「……ロック……」

声に出すと、苦しい。
大好きな、貴方の、名前なのに。
段々苦しくなってきて。不安で胸が、押し潰されそうで。


「あれ?」

予想外の場所から、予想外の声。

「ティナ、こんな時間に起きてたのか?」

呆れるくらい、普段どおりの。
そして、いつもと同じトーンの。
彼の声が、耳に届いた。
「!?」
振り返ると。
思った以上に日に焼けて、服は何だか埃っぽくて。
それでも、出て行ったときと同じ服装の。
彼の笑顔が、そこにあった。
「ロック……!」
それ以上言葉に詰まって、声が出ない。
「ごめん、遅くなっちゃって。一刻も早く帰って来たくて、何とかチョコボを飛ばしてきたんだけどさ」
彼はベッドサイドの椅子に腰掛けて。
「夜中だから、こっちの方向が今ひとつだったんだけど……。ティナだろ、あの篝火って」
「え?」
「あれが見えたから、きっとティナが待ってくれてるんだろうな、って思って……。火を目指して来たんだよ。良かったよ、合ってて」
そう言うと、温かく微笑んで。

「ただいま、ティナ」

何より待ってた、言葉をくれた。

「……お帰りなさい」

私は微笑んでから、そっと彼の頬に触れる。
夢じゃないから、消えたりしない。
その感触に安堵してから。今日のこの日に、言いたい言葉を付け足した。


「ロック」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」

       *

   あのひとが、迷わず帰って来るように。
   ここにあかりを、灯しましょう。

   あのひとが、迷わず帰って来たのなら。
   心にあかりが灯るから。

   それは私の、幸せの灯火。

  ──────────

ロック誕生日記念…ということにしてやって下さいませ(懇願)。

Title
「灯火」 シスターM
Posted
2004/11/24
Category
ロクティナ・SS

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