こんなに小さな、掌なのに。
抱えるものが、大き過ぎて。
*
夜。
人も獣も、全て寝静まる時刻。
闇へ紛れる、気配がひとつ。
そして気づいた、俺がいる。
息を潜める、彼女を探して。
「……あれ」
俺としたことが、見失ったようだ。
夢のように儚い気配を持った人。
夢のように儚い美しさを持った人。
……夢よりもなお、儚い心の持ち主。
実際、世間知らずということではなく。
戦いや世界情勢に関する知識においては、むしろ俺以上。
それなのに。
人として大切な『心』を封じられて育った、君。
いきなり開放されても、簡単には取り戻せずに。
徒に流されるまま、戦いを続ける君。
同情なのか。
俺自身の過去への罪悪感なのか。
それでも、守りたくて。
「ロック」
不意に、声が届いた。
振り返ると、人の気配は驚くほどに希薄で。
ただそこに立つ木立のように、佇む君がいる。
「ティナ」
俺の言葉には答えず、首を捻って。
「……どうして?」
珍しく、彼女から発せられる疑問符。
「どうして、私についてくるの」
「え?」
「私はひとり。ずっとひとりよ。なのに、どうして」
困惑を顔に貼り付けて、ティナは悩んで。
「違う」
俺は、なるべく声を穏やかに、彼女に微笑みかける。
「?」
首を傾げる彼女。
「君はひとりじゃない。俺もいるし、仲間たちもいる」
「……仲間……」
彼女は意味を理解しようと、神妙な面持ちで。
俺は彼女に、自分の言葉で語り続ける。
「血のつながりとか、そんなものは関係ない。ただ」
ここで一旦言葉を切って。
「一緒にいたいと、そう思う相手。それが仲間ってことだよ」
少しでも、心に届いて欲しいと。
俺は、そう思っていた。
しばし沈黙し、考えていた彼女は。
やがて、じいっと俺を見つめた。
水晶のように澄み切った瞳。
そして、視線を不意に落とした。
見つめるのは、自分の掌。
か細い声で呟く。
「この手は、たくさんの人の血を流させたわ」
淡々と、抑揚のないトーン。他人事のように。
「血塗られた手を持つ私と、共にいようという人はいない……」
虚ろな瞳で、虚無の中に宿る悲しみ。
見ていられなくて。
手を伸ばした。
ぎゅっと握った掌は、温かくて。
それでいて、思っていた以上に華奢で。
不思議そうに、俺の行動を見ていた君は。
何も言わなかったけれど、俺にそのまま手を握らせていて。
俺たちは、ただそのままで。
言葉は何も、役に立たなくて。
ただ、そのままに。
君のテノヒラを。見つめていた。
───
クリスマス的創作をいい加減に考えたいと思うのですが…。
全くよくわからんものを書いてしまいました、すみません。