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「花弁」 シスターM

 ひらり、ひらり。
 風に遊んで。

 ゆらり、ゆらり。
 風にたゆたう。

 ふわり、ふわり。
 空を踊って。

 くらり、くらり。
 僕を惑わす。

     *

気がつけば、時間というものは確実に流れているもので。
あの『戦い』から、既に3年を経ていた。
人は、生きる希望を取り戻して。
生きるための世界を、再び作り上げて。
夢を追いかけ、空を見上げるようになった。
忌まわしき記憶とされた、過去の出来事は。
人々の心の中、段々と薄らいでいて。

人は、日常を取り戻そうと、していた。


「……あれ」

風の中に舞う、それに気づいたとき。
俺はふらりと、誘われるように歩を進めた。
懐かしく、そして久しく目にすることのなかったであろうものは。
俺に新鮮な驚きを、もたらしてくれた。

「おっ……!」

お宝発見。
手を伸ばし──思いとどまって。
俺は、元の場所へと引き返した。

「何?何を見つけたの?」
「まあまあ」

未だに可愛らしさが印象強い、最愛の女性の手を引いて。
辿り着いたのは、先程の場所。

「ホラ」
「………あ」

俺と彼女の、視線の先。まだ若木の、その木の枝に。
淡い桃色の、花。

「花が、咲いてる……」
「すごいだろ」

世界が一度、滅びに向かっていた影響は、土壌にも色濃く残り。
草や木が、再び芽吹くまで時間を要している土地もまだ多い。
それでも人は、長く眠っていた大地が再び鼓動して、青々と茂る草原や森が帰ってくることを夢見て生きる。
人の希望は、もうなくならない。
恐怖の象徴は、あの塔は、崩れ去ったから。

そして。
今や『花』は貴重品。
かく言う俺も、あの戦いのあとで、花を見たのは初めてだった。
恐らくは、隣で目を丸くする、彼女も。

「すごいわ」

彼女は、心から嬉しそうに、笑う。

「ちゃんと大地は、その力を取り戻してきている……全てを生み出す力を、失ってはいない」

眩しそうに、花を見つめる彼女の髪を。太陽が柔らかく照らす。
萌える若葉の如く艶やかな、緑の髪は。
俺にとって、草や木よりも。

「……綺麗だな」
「え?」

彼女の方を向いて、発した俺の言葉。
意味を図りかねた彼女は少し、きょとんとして。

「本当に、綺麗ね」

再び花に、視線を注ぐ。

───相変わらず、陳腐な口説き文句なぞ、通じなくて。
それは君の魅力でもあり、短所かもしれないけれど。
それでも。
今日は、君の笑顔を堪能したことに、満足する。

「さ、戻ろうか」
「ええ」

二人並んで、戻る先には。
待っている人たちがいるから。
今度はみんなで、この花を見に来よう。
きっと、もっと、楽しいから。

     *

 ひらり、ひらり。
 風に遊んで。

 ゆらり、ゆらり。
 風にたゆたう。

 ふわり、ふわり。
 空を踊って。

 くらり、くらり。
 僕を惑わす。


 それはまるで、君のよう。


 ─────

3月ですね。ということで、一作投稿させていただいております。
一応『桃の花』からイメージしたのですが…。

ロックさんとティナさんは、戦いのあと一度別の道を歩んで。
1年後ぐらいに、モブリズにロックさんが来てるって感じです。
ティナにとっては、ロックはきっと、頼れる兄のような家族で。
ロックにとっては、ティナをもう少し大人の恋愛感情で見ている感じです。

……お互いの名前、呼んでませんでしたね。
申し訳ありません。

Title
「花弁」 シスターM
Posted
2005/03/02
Category
ロクティナ・SS

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