自分の幸せを願うことは。
我侭じゃないって、誰かが教えてくれた。
でも。
今の私の幸せは、みんなの幸せにはならないから。
*
コーリンゲンという名の、小さな街でも。
滅亡の足音が聞こえる。
それでも、新しい芽吹きを信じる子供がいた。
絶対に芽が出ると、疑わずに待つ子供がいた。
それなら、大丈夫だと思えた。
だから。
この街に眠る女性に、私は伝えた。
『……レイチェルさん』
勿論墓石は何も答えない。
それでも、伝えたくて。
私は祈りを捧げつつ、心の中で語り続けた。
『ロックを鎖から開放してくれて、ありがとう』
『彼は今、やっと前を向いて歩いている』
『彼はもう、逃げないわ……仲間たちが、セリスがいるから』
答えることのない墓石へ。
私はなおも、心で囁く。
『きっと彼はもう、太陽に背を向けない』
『守るべきものを探し出したから、彼は戦える』
『……私を救い出してくれたときよりも、今の彼は強い』
『だから……だから、もう、大丈夫』
私がいなくなっても、大丈夫だと。それだけは、伝えなかった。
単に私が、まだ認めたくないという、それだけの理由で。
『……さよなら、レイチェルさん』
私は墓石に黙礼して、背を向けると歩き出した。
*
「ティナ」
ファルコン号で自分に与えられた部屋。狭いけれど、ちゃんとした個室で。贅沢だと思ったぐらい。
その部屋を訪れたのは、ロック。
「なあに?」
「いや、その……今日、コーリンゲンでさ。君がレイチェルの墓参りをしてくれたって聞いたもんだから……ありがとな」
年上とは到底思えないほど、はにかんだ笑み。
彼のその表情は、好意的に受け止められるもので。
できれば、ずっとこれからも。その笑顔を見ていたかった、と思う。
「どういたしまして。それよりもロック、そろそろ休んだら?あまり眠っていないんでしょう」
平静を装って、話しかけると。彼ははっとした表情になって。
「このところ『瓦礫の塔』の探索ばっかしてたからな……んじゃ、ティナ、おやすみ」
苦笑いして、出て行った。
彼のさり気ない、照れた仕草も。顔を向けずに片手を上げて去って行く、彼のくせも、好きだった。
だから。
最後の時まで、覚えていたいと。
そう、思った。
*
「───では、突入するぞ!」
ファルコン号の甲板で。エドガーの声が響く。
3つのルートに別れて、それぞれ4人ずつで突入する私たち。
エドガーの号令に応じて、第一パーティから第3パーティまで、それぞれが塔の突入口へと飛び降りる。
「第2パーティ!ティナ・モグ・ガウ・マッシュ!」
私は仲間と目配せしてから、そのまま大空に身を任せた。
「ティナぁ!」
到着地点からふと顔を上げると、上空の甲板には未だロックの姿。
彼は第3パーティだから、そろそろ出発のはず。
「……必ず、また会おう!」
ロックは笑顔で叫び、右手を高く突き上げた。
私はしばし迷ってから、彼に手を振って答えた。
───ごめんなさい。
これが最後かもしれないから。
『また』なんて、今の私にはないから……。
ロックが甲板から姿を消した。きっと第3パーティも出発したのだろう。
だから。
さっきの笑顔が、最後かもしれないけれど。
私はもう、大丈夫。
*
今の私が願う幸せは、みんなの幸せにはならない。
だから。
私は消える。それでいい。
……だから。
貴方との幸せを、抱き締めて、走る。
最期のときに、私が必ず。
貴方のもとに、戻れるように。
完
すみません……よくわからないものとなりました。