※ 本文はマッシュ×セリスを目標としておりますが、
この中ではまだ全然カップル成立していません。
また、崩壊後の世界を念頭に置いているにも拘らず
セリスの口調は『元将軍』的なものとなっています。
ひとえに私の趣味だけでこうなっておりますが、
可愛らしいセリスがお好きな方は閲覧をご遠慮ください。
以上をご理解のうえで、お読みいただければ幸いです。
初めて会ったとき、自分とは違う人種だと感じた。
眩しいほどの笑顔、そして己が信ずるべきものを、まっすぐに見つめる瞳。
揺るぎない意思を内に秘めた、その輝き。
全てが自分とは違い過ぎていて。『嫌い』だと、強く思った。
それは恐らく、初めての感情。
負の感情ではあったけれど、他人への強い関心の表れ。
認めたくはなかったが。あの時、確かに私は。
マッシュという人間を、強く意識したのだ。
『戸惑う理由』
世界が壊れ、人が絶望の中、ゆっくりと破滅への道を歩み始めたとき。
長く眠っていた私は、シドの看病の甲斐あって目覚め。絶望を希望に変え、旅立つ。
「きっと仲間は生きているはずじゃ」
シドの言葉に、すがりついて。私はひとり、筏へ乗り旅立った。
無事辿り着いたアルブルグから、ツェンへと足を向ける。
幸いにもまだ人は生きている。そして、仲間たちもきっと。
希望はまだ、失われてはいない。確信できたから、前を向く。
今はまだひとりだけれど、絶対に探し出してみせるから。
互いに全てをさらけ出し、信じ合って、共に戦った仲間たちを。
(……待っていて、みんな)
心に念じながら、歩き続けた。
禍々しいケフカの居城すぐ近く。ツェンの町は、何とか残っていた。
しかし。唐突に閃光が走り、続いて大地から突き上げるような衝撃。
「『裁きの光』だ!」
「大変だ、廃墟の屋敷がっ!今にも崩れるぞ!」
「中に子どもが!」
人々が騒ぎ出す中を、無意識に駆け出して。
───彼を、見つけた。
「……マッシュ!!」
崩れ落ちそうな屋敷の玄関口を一人で支える、満身創痍のモンク僧。
鍛え上げられた肉体も、焼けたような金髪も。あのときと変わりないまま。
「!セリス……頼む、中の子供を……俺も長くはもたない……!」
吐き出すような声にはっとして、慌てて屋敷へ突入して。
襲い来るモンスターは全て、呪文でかわして。無事子供を救い出した。
「マッシュ、子供は無事だっ!あなたも早くっ!」
「おうっ!」
私たちが無事避難したのを確認してから、マッシュは驚くほど機敏な動きで屋敷から離れた。途端、轟音を上げて屋敷全体が崩れ落ちた。
「ありがとうございました……!」
「お姉ちゃん、ありがとうっ!」
無事に子供を母親の元に送り届けてから、私はマッシュの元へ急ぐ。
「マッシュ!怪我は!?」
「………大丈夫だ」
どう見ても大丈夫とは言い難い怪我。所々から出血もあって。
それでも彼は、にっ、と白い歯を見せて笑った。
「助かったよ、セリスが来てくれて」
「え?」
「本当は俺が中に突入しようと思ってたんだが、家が崩れてきちまっただろ?そうなればまず家を支えるしかなくなっちまってさ……誰か仲間が通りかからねえかな、なんて思ってたらちょうど来てくれたもんな、お前」
ぼりぼりと頭を掻いて、埃と汗にまみれた顔を輝かせて。
「本当に良かったよ、あの子を助けることができて」
すがしい表情で、空を見上げていた。
その表情には、つい先程までの自分の生命の危機に対する感情は全く認められなくて。
私は他人事ながら、不安にかられた。
「マッシュ……あなたは、もし私が偶然駆けつけていなかったら、どうなっていたのかわからないんだぞ」
眉間に皺を寄せて、きつい口調で咎めると。
「あ?ああ、そういや、そうだなあ」
マッシュは『今思い当たった』という表情で、頬を指で掻く。……信じられない。
私は溜息をついてから、彼に鋭い視線を向ける。
「私は、今度こそケフカを倒すつもりだ。あなたも勿論、そうなのだろう?」
「ああ」
「それなら、もっと自分を大事にするべきだと思うが」
「?何のことだ」
マッシュは本当に理解していないらしく、首を捻っている。私は頭を抱えたくなった。
「無計画に何でも動こうとするな、と言っている!さっきの救出劇だってそうだ、結果往来といえば聞こえはいいが、偶然の産物だろう。今この世界で、あいつとの戦いに挑む意思を持つ者は私たちだけ……ならば、自身をもっと大切にせねば……」
くどくどと、私がなおも言い募ろうとしたとき。
「セリス」
常ならぬ口調の、マッシュの鋭い声が、それを遮った。
マッシュの顔を見上げると、初めて会ったときと同じ強い光を宿した瞳が、自分を映していることに気がついた。思わず全身に緊張が走る。
マッシュはにいっ、と口元に笑みを浮かべて。
「あのな、確かにお前の言うことは正しいよ。俺たちはケフカの野郎を倒す、それは絶対に成し遂げなければならないことだ。そのために我が身を大事にすることは、全く間違ってなんかいない」
そこで一度、言葉を切って。
「それでも……そんなときでも、目の前で助けを求める人間がいたら、やっぱりそっちを助けようとするだろう?それが人間ってもんだからな。そのために自分が危険な目に遭ったらどうだ、とか、そんなことは関係ねえんだよ、な」
それから私に、優しく微笑みかけた。
「セリス、俺のこと心配してくれたんだな。ありがとうな」
優しい言葉は、私の身体に優しく響き。私の興奮は、あっさりと熱を失い。
マッシュの笑顔に見惚れてしまっていた自分に気づいて、狼狽した。
……どうしてだろう。
初対面のとき、あれほどに毛嫌いしていたこの男の笑顔が。
これほどまでに、自分を心騒がせるなどと。あり得ない。理解できない。
「セリス、どうしたんだ?」
突然の感情に、戸惑う私を案じてくれるマッシュの表情。
思いがけず至近距離に、彼の顔があって。突然の鼓動の高鳴りを覚える。
心が、騒ぐ。
「な……何でもない」
内心の激しい動揺を隠しつつ、平静を装って答えると。彼は全く気づかなかったらしく。
「そうか?んじゃそろそろ宿でも探して、明日からどこに行くか相談しようぜ。世界の地形そのものも変わってるし、それなりに準備もいるからな」
感動の再会を味わう、なんてこともなく。彼は全く以前と同じまま、歩き出して。
私も慌てて、その背中を追いかけた。
*
私の中で、何かが変わった。
少なくとも、今マッシュという人間を嫌っているような事実はなく。
むしろ、私は彼に好意のようなものを抱いているのかもしれない。
……確かめる術は、今のところないのだけれど。
自分で自分の心がわからない。こんな滑稽なことがあるだろうか。
身体中を走る熱を、どうすればいいのだろうか。
私はただ、道の真ん中で、迷って佇む子供のようにうろたえて。
その理由もわからぬままに、また彼の笑顔に、戸惑う。
《終わり》
……チャットで盛り上がったもので書いてみたのですが……。
すみません、力量不足過ぎました~…(涙)
場面は数少ないマッシュとセリスの絡みがある、崩壊後のツェンで
お子様を助け出すイベントを使ってみました……少しだけ。
本編から引っ張るのはこれが限界かも…。