机には、シンプルな飾り気のない携帯電話。
やたらと目立つカラーとか。
たくさんのストラップは好きになれなくて。
つけているのは、ひとつだけ。
あの人が、くれたもの。
*
『これ、ティナにやるよ』
唐突なひとことだった。
『え?』
首を傾げる私に、彼はその年齢にはそぐわないほどの明るい笑みを浮かべて。
『綺麗だろ?きっと君に似合うな、って』
服のポケットから無造作に取り出した何かを、私に向かって放り投げた。
慌てて受け取った掌に、何とか無事収まっていたのは。
『……綺麗』
赤を閉じ込めた、緑。
不思議な色の石。
『生きてるみたいだろ』
彼は私の反応に満足して、私に笑顔で語りかけた。
『珍しい色合いの水晶だって、教えてもらったんだ。だから君にどうかな……なんて、さ』
良かったらもらってくれる?と。
彼はさらりと尋ねてきたから。
私は無言で頷いた。そして。
『ありがとう、ロック』
自然に、笑えたと思う。
*
(……元気かな)
ロック。
あの人は。
久しく使われていないメールボックスを探る。
中に。
ぽつんと残されていたのは、ロックからのメール。
『今から行ってくる。ティナ、元気で』
ひと言だけを残して、不意に何処かに旅立った彼。
もう追いかけもできない。
だから。
そっと、静かに。
久し振りの携帯メールを。
……貴方に。
送った。
*
不意に鳴るメロディー。
それは、彼女だけのもの。
まさか、という戸惑い。
まさか、という喜び。
一緒になって、やって来た。
*
「!?」
画面で確認して、それでも信じ難くて。
慌ててメッセージを確認する。やはり彼女の言葉。
『元気ですか?』
思わず綻ぶ口元を、慌てて戻そうと意識するけれど。
にやける頬は、抑えが利かないようで。
しかも。
『……私は元気。でも、寂しいです』
普段、自己の意思を。感情を表に出さないよう努めているティナがこんな言葉を送って寄越すなど、考えられなくて。
『貴方に、逢いたい。』
最高に泣ける言葉をくれたから。
俺は迷わず、彼女を目指した。
*
『ティナ、ただいま』
『!!』
帰って来たと、迷わずに笑って。華奢な少女を抱き締める男。
お帰りなさいと、微笑んで。男の腕の中、微笑んで目を閉じる少女と。
ふたりは、きっと、幸せ。
きらきらと。
輝く光に囲まれて。
それは。
祝福のメッセージにも似て。
優しく、ふたりを包む。
(完)
すみません…かなり尻切れトンボ状態でしたよね。
加筆修正してみましたが。いかがですか?