しとしとと。
さらさらと。
降り続く雫、いつまでも。
大地に恵みをもたらすために。
*
空を見上げると、雫が絶え間なく降り注ぐ。
自分の髪も装束も、全て水を含んで重くなっていた。
でも。
まだここに立っていたかった。
自分の目から溢れるモノを、隠したくて。
「ティナ!!」
自分を呼ぶ声に意識を向ける。
傘を差して、青いバンダナを揺らして。
「……ロック、どうかしたの?」
尋ねると、彼は一瞬言葉を失って固まる。
そして、眉間に皺を寄せた。
「どうかした、じゃないよ!全くもう、君がいなくなったって船中大騒ぎだぜ!」
「え?」
首を傾げると、盛大な溜息が聞こえて。
「とにかく!すぐ戻ろう!そんな格好じゃ、風邪ひいちまうぞ」
強引に私の手を取って。彼はずんずんと歩き出した。
「心配したんだからね、みんな!」
こっぴどくリルムとセリスからお叱りを頂戴して。
それからシャワールームへと直行させられた。
熱いお湯を浴びて、また顔から溢れ出てくるモノ。
「……っ……」
涙を隠して誤魔化した。
古代の遺跡。二千年前眠りに就いた城。
幻獣と、人間との、恋。
純粋な想いは、遂げられることなく王女の胸の中で眠り。
その命を閉じた後で、私たちの目に触れることとなった。
やはり、昔も今も同じ。
『人間』と『幻獣』との恋は、生涯許されないのでしょうか。
………駄目なのでしょうか。
視界がぼやけてきたのを自覚して、慌てて記憶を切り替えようと試みるが。
胸の痛みと、溢れる涙は抑えられるはずもなくて。
ただ、シャワーの水流に顔を近づけて。
激しいスコールのような痛い流れで、流れる涙を無理矢理払う。
さっきの雨と同じ。
「………戻ってきたね」
シャワーを終えて自室へ戻ると。部屋の前に、ロックが立っていた。
「ちゃんと温まった?」
「え、え……」
鋭い瞳に戸惑う私を、有無を言わせず部屋へと押し込むと。
ロックは後から入って、後ろ手に扉を閉める。
それから。
鋭い瞳のまま、私を見据えた。
「───ティナ」
反論を許さない口調。
ロックが、静かに私の近くへと歩み寄る。
その迫力に思わず後ずさりしてしまいそうになると。
がし、と力強く両肩をつかまれて。
そのまま。抱き込まれた。
「!」
硬直する私を、なだめるように。耳元でロックが囁いた。
「……頼むから、一人で泣くなよな」
静かに、静かに。風が吹くかのように囁き声。
「ティナはいつも、抱え込むから……」
「……ロ、ック………」
抱き締められて、全身が温かくて。
ロックの私を気遣ってくれる声が、心の中まで染み入って。
また。
雫が、溢れ出した。
「いいよ」
ロックの声が響く。
「隠す必要ないから、いいよ。泣きたいなら、思いっきり泣いて」
「………っ」
思わず、ロックの服をぎゅっとつかんで。
私は、幼子のように。
声を上げて、泣き続けた。
*
しとしとと。
さらさらと。
降り続く雫、いつまでも。
心の中で、いつまでも。
そして。
貴方が見つけてくれたから。
いつかきっと、雨が止む。
(終)
雨から連想したのですが…初めて途中で一度やめてしまいました。
一応完結はさせましたけれど、やはり何やら半端ですね。
すみません。