作品展示場

当サイトに投稿された作品のまとめです。

index  reset  RSS

作品表示

「月を見上げて」 シスターM

 太陽の光なしには、輝くことを許されない。
 そんな、存在。

 だから。
 私はあれが、綺麗だと思うのかもしれない。


      *


全ての生きるものが、闇の中に安らいで眠りに就く時間。
それが、夜。
心地良い静寂。沈黙が私を包む。

ふと、思いつくままに歩いてみた。
かつての私には、思いも寄らなかった行動。
飛空艇を停泊させている草原には、微かに虫の声。
単なる雑音だと思っていたそれにも、意味があるのだと。
教えてくれたのは、彼だったように思う。

『全部虫たちの声なんだよ』

人好きのする優しい笑みで、そう教えてくれた男性。
誰よりも悲しい色を宿した瞳と。
誰よりも温かい色を宿した空気。
そして。
誰よりも悲しい色を湛えたココロをずっと、抱えていた人。

例えどんなことがあっても。
あの人の中に宿る、例えようもない空虚感は、なくなることがない。
それは。
希望に満ち溢れている人間の、それではなく。
全てのココロを閉ざした人間の、それに酷似していた。
……恐らくは。
あの男に、近しくて。


「……ティナ?」

名前を呼ばれて、どきっとした。
青いバンダナが、風に揺れていた。

「ロック」

「どうしたんだ?眠れないのか?」

真剣な眼差しで、私の瞳を見つめるその優しさには。
偽りなどなく、ただ私を案じてくれているのがわかって。

「大丈夫」

私は静かに、告げた。

「綺麗だから、見たいと思ったの」

「何を?」

「───あれ」

私が空を指差すと、彼はすぐに感づいてくれて。
確かに綺麗だな、と。
そう、笑っていた。

……貴方も。

「月みたいね」

「え?」

彼の頭に浮かんだであろう疑問符には、答えない。
私はただ、黙っているだけ。

『真実』という太陽を得るまで。
貴方が笑えないのならば。

いつか、絶対。
絶対に貴方を……。

     (終)


久々に一作捻ってみております。
スミマセンです。

Title
「月を見上げて」 シスターM
Posted
2005/09/04
Category
ロクティナ・SS

URL

script:WebLiberty skin:wmks ::admin // reset / page top↑