今は、逢えないから。
だから。
どうか、今宵だけでも。
*
無機質な風の音は、空虚な気持ちを更に増やす。
廃屋を抜けるその音が、僅かに残るここの子供たちを。
密やかに、追い詰める。
私に必死でしがみついて、立ち上がる子供たちの。
夢に懐かしい両親を見て、声を殺して泣く姿。
未だ感情が不安定で、万時に戸惑う私でさえ。
何の代償も求めることなく、ただ、守りたいと。
そう思ったのは、不自然ではないのだろう。
「………また、空が………紅い……」
ひとり、外に出てみた。
子供たちは夜の帳の中、身を寄せ合って眠りについて。
今、このモブリズで、動いているのは私だけ。
夜なのに、空は紅い。黒の中、不気味な紅。
人が流す血の色か、人の心の尽きない吐息か。
この空の下で、悲しい光を宿した笑顔のあの人が。
仲間と共にいるのだろうか。
それとも。
ひとりで、暗闇を歩いているのだろうか。
かつての旅路、ブラックジャック号の中。
『ティナの誕生日!?』
セリスがもたらした情報に、一同は驚いた。
当人である自分までも。
『セリス、お前何でそんな大事なこと早く言わねぇんだよ!』
『仕方ないでしょ!私だってうっかり忘れてたんだから!』
ロックとセリスが言い争う。
困ってしまう自分に、エドガーは大丈夫だと笑みをもって答えてから。
『ほらほら、ふたりとも落ち着けよ、本日の主役が不安そうだ。こんな日に主役を困らせるものじゃない』
誠にスピーディにロックとセリスの口論を止めた。
そして行われた誕生日パーティ。
何か特別なことをしたわけではなく、過ごした時間は普段どおりで。
それでも。
皆が心から祝福してくれていたから。
私は、とても嬉しかった。
……忘れたことなどないほどに。
「………。貴方は……貴方も、ここにいるの?」
紅黒い空の下、何故か思い出したのは青いバンダナ。
狂気にも似た純粋な気持ちを、迷うことなく曝け出した人の。
深い悲しみが宿る瞳。
思い出す度に、胸が苦しくて。
「…………ロック……」
本当に、久し振りに。
懐かしい名前を呼ぶ。
悲しいほどに純粋な、かつて愛した女性への心。
それが狂気と呼ばれても、決して捨てようとはしない執着。
硝子細工のように、強さと危うさを持った瞳。
……太陽の暖かさを持った、それでいて悲しい笑顔。
何もかも、私の中で光り輝いて。
逢いたい。
……貴方に、逢いたい。
声にならない言葉が、空虚な風にさらわれて消えた。
*
今は、逢えないから。
だから。
どうか、今宵だけでも。
『逢いたい』と。
叫ぶことだけは、許して欲しい。
────────
(後書き)
お、大幅に遅れましたが……一応ティナ誕生日記念なのです。
世界の崩壊後、離れ離れになっていた彼らの間にも『誕生日』とかってあったかな?
すみません、意味不明な上に暗いです。