それは、魔を祓う。
*
外を歩いていて、目に付いた鮮やかな緑。
「ロック、これは何?」
思わず指を差して尋ねると、彼は微笑んでから教えてくれた。
「柊っていう木だよ。すげぇなあ、まだこんな大きい木が残ってたんだ」
濃い緑の葉と、赤い実。空にくっきりと浮かび上がっているそれ。
とても、綺麗だと、思った。
「別名ホーリーって言って、魔を祓うって言われてる木なんだよ」
ロックは木を眺めながら、話してくれた。
「この葉の棘がいいのかな?昔から言われてるんだけど……あながち嘘じゃないのかもな」
「どうして?」
私の問いかけに、彼はまた微笑んで。
「だって、こんな世界でもまだ、元気だろ?」
───ケフカによって、破壊された、この世界で。
彼の言いたいことを理解して、私は頷いた。
そっと、木の幹に触れる。
滅びに向かおうとしている世界の中であっても、木は未だ生命の輝きを失わず、懸命に生きていた。
「……魔を……ケフカの邪悪な力を、打ち砕いているのかしら」
「そうだよ、きっと」
ロックも私と同じように、幹に手を触れて。
「こんな風に、まだ諦めていない奴がきっといる。俺たちみたいにな……だろ?ティナ」
私に向かって、頷いた。
「ええ」
彼の言葉に、私も頷き返した。
そう。
まだ、諦めるには早い。
絶対に、この滅びを止めて見せる。世界の中で、ほんの僅かでも、この木のように諦めていないものがある限りは。
目を閉じて、木に意識を集中させると。
微かに木の鼓動が、耳に届く気がした。
「そろそろ船に戻ろうか」
ロックの声に、目を開ける。
柊の木は、静かに佇んでいた。
「ええ、行きましょう」
私は彼に答えてから、木を見上げた。
乾いた風を受けながらも、柊の木は佇んでいて。凛とした緑の姿が、美しいと思った。
「……ありがとう……」
木に話しかける。勿論答えは返らないけれど、それでも言いたくて。
まだ、諦めないと。
世界の再生を、諦めていない生命の姿を見せてくれたことに。
戦いの終焉を、諦めていない私たちを激励してくれたことに。
「ロック」
「ん?」
「……私、負けない」
目に焼き付けた、緑の葉に。赤い実に。
私は、約束したから。
絶対に、この戦いを、終わらせるって。
「……そうだな」
彼は私の意を汲んでくれたのか、頷いてくれた。
*
それは、魔を祓い。
それは、人を呼び。
人に力を与えたもう、緑。
聖なる木──Holly。
(後書き)
クリスマス的創作を考えていて挫折しました…。