瞳を閉じて、
ただ思い出す。
懐かしいのは、
あの旋律。
*
温かな音の重なり。
それは、私の中でも朧気な、でも。
大切な、儚いモノ。
だから。
そうっと、頭の中の音を辿る。
そのうち自然と、声が出ていたようで。
近くにロックが来ていたのにも、気づかなかった。
「珍しいな、ティナ」
「え?」
私が首を傾げると、彼は少しだけ微笑んで。
「君が、歌うなんて」
「……歌……」
思わず手で口を覆う。
そんな私を見て、目を丸くしたのはロックの方で。
「気づいてなかったのか?自分が歌ってたの」
彼の問いかけに、私は頷いた。
「夢、か……」
「そうなの」
私がひととおり話し終えると、彼は静かに微笑んで。
「きっと、子守歌だよ」
一言だけ、話してくれた。
「子守、歌?」
首を傾げる私に、彼は頷いて。
「ぐずる赤ちゃんを眠らせるための歌。きっと、君のお母さんが繰り返し君に歌ってたんだよ」
「お母、さん……」
父の記憶の中でしか、その姿を辿ることのできなかった人。
幻獣の父と愛を育み、そして、私という存在を最後まで守ろうとした人。
───ガストラの凶刃に倒れるまで、私を守ろうとした、人。
何も覚えていなかったことが、ただ悲しくて。
でも。
私は『歌』を覚えてる。
優しくて、温かくて、何より素敵なあの『歌』を。
「良かった」
「え?」
私の呟きに、ロックは怪訝そうな表情をしたから。
「何でもないわ」
私は彼に答えてから、ふと思いついた。
「ね、ロック」
「ん?」
「もう一度、頭の中の音を辿ってみたいのだけれど……うるさくないかしら」
尋ねてみると、彼は笑顔になり。
「うるさくなんかないさ。俺も聴きたいし、是非聴かせてくれよ、ティナのお母さんの歌」
そう言ってくれたから。
私は頷いて、そっと目を閉じて。
もう一度、頭の中の音を、辿ってみた。
*
瞳を閉じて、
ただ思い出す。
懐かしいのは、
あの旋律。
心安らぐ、優しい歌。
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相手がロックである必要がなかったかもしれません(汗)。
ロックサイド、書けたら書いてみようかな…。