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「エゴイスト」(ティナ→ロック) シスターM

  ……お願い。
  これだけは許して。

     *

真夜中の、月も星もない世界を見つめていた。
目が冴えて、眠ることができなくて。

世界を見つめて、溜息をつく。
荒れ果てた大地と、晴れることのない空と。
死にゆく生命と、望み失う人たちと。
全てが、限界に近付いて。
……今しか、ない。あの男を止めるのは。
そして、世界の滅びを止めるのは。

「最早一刻も猶予すべき時ではない」

誰ともなく言い出したのは、必然。
そして、皆異論などない。私だって。

「志を同じくする仲間たちが、今ここに集った……だから、行こう」

全員が、頷いた。

明日。
私たちは、最後の戦いに挑む。
この世界の未来を賭けた、戦い。
──そして。
私の命を代償にする、戦い。

……誰にも伝えてはいないけれど。

「ティナ」

不意に名前を呼ばれ、思考を中断する。
見慣れた笑顔と、青いバンダナが視界に入った。

「ロック」
「眠れないのか?」

明日は早いんだぞ、と続けながら、彼は私の隣へ立った。
私は曖昧に頷いて、彼から視線を外す。
驚くほど聡く、感の鋭いこの人に。
私の思考を悟られるのが、恐くて。

「ロックこそ、眠れないの?」

反対に尋ねると、彼は吐息で笑って。

「そうなんだよな」

見はしなかったけれど、きっと照れ臭そうに笑っていたと思う。

ロックの笑顔が、好き。
少年のような愛嬌がある笑顔。
見る者を安堵させる、笑顔。
突然に自我を取り戻し、何もわからないままの私を助け出して、導いてくれた笑顔。
……好き。大好き。

今、見ていたい。
彼の笑顔を、見つめたい。

でも、できない。

「ロック、私、もう眠るわ」
「ああ。お休み」
「お休みなさい」

彼に背を向けて、自分の部屋へ戻ろうと歩き出す。
視界がぼやける前に、戻りたくて。

「ティナ」

背中に届く、彼の声。

「明日は、頑張ろうな」

声が出せずに、手を上げることで彼に応えて。
私はひとり、自室で枕に顔を埋めた。

この戦いの終わりこそが……自らの終わり。
皆の前には、明るく輝かしい未来が待ち。
私の前には、永遠の沈黙が待ち受けている。
理解はできていて、事実は把握できていて。
ただ、未だに恐怖を拭い去れない自分がいる。
この世界が、好きだから。
この世界にいる人たちが、好きだから。

叶わない望みを、そうっと呟く。

『……また、青空を見たい』

最後の戦いに勝利しても。
この空が晴れる頃は、私はもうここにはいない。
彼はきっと、あの笑みを浮かべて、空を仰ぐだろう。
でも、その隣には、私はいないのだから。

「………ロック………」

貴方と一緒に、もう一度だけ。
青空を、見たかった。

     *

  ……お願い。
  最初で最後の、我侭を言わせて。

  私も未来を夢に見て、笑顔で語ってみたかった、と。

  心の中だけは、言わせて。

Title
「エゴイスト」(ティナ→ロック) シスターM
Posted
2006/06/02
Category
ロクティナ・SS

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