こんなことを、考えるなんて。
かつての自分には、なかったはず。
『きっと、貴方のおかげ。』
*
モブリズの空の下、広がる大地に芽吹く命。
あの戦いの終結から、既に2年を数えて。
大地の力は、人のそれよりも逞しく、甦りつつあって。
この小さな集落に身を寄せ合う、自分たちの命を支えていた。
「ティナママぁ!」
「見て見て、こんなに大きなおイモだよぉ!」
籠一杯の収穫を見せに走ってくるのは、すっかり成長してたくましくなった子供たち。大地の力を受け継いだかのように、彼らは日々成長し、自分たちの力で村を支えている。
「すごいわね。これなら今夜はグラタンができるわ」
私の言葉に、子供たちは瞳を輝かせて。
「やったぁ!」
「グラタン、僕大好き!」
「ねえティナママ、とびっきり美味しいの、作ってね!」
籠を手にして、走り去って行った。
「……ふふ」
彼らの背中を見送りつつ、自然に口元に浮かぶ笑み。
そんなことも、今では意識せず行えるようになっていて。
改めて、時間の経過を思う。
そして、自分が過ごした時間を思う。
人生の中で、恐らくは初めて与えられた、穏やかな日々。
かつてのように、怯える子供たちをただ抱き締め、敵の襲来に怯えていた自分ではなくて。
今ははっきりと大地に足をつけ、空を見上げて。
自分という生命体が、ここに存在していることを、実感させてくれる日々。
そして。
私が、力を失ったと同時に得ることができた、かけがえのないもの。
「……きっと……あの人の、おかげよね……」
「誰のこと?」
不意に耳に届いた、囁くような声。
「え!?」
慌てて振り返ると。
青いバンダナが、ゆったりと風に揺れて、未だ幼子の印象を留める人懐こい笑顔に映えていた。
「……ただいま、ティナ」
優しい声が、告げるから。
「…………お帰り……なさい、ロック」
私は、負けないように。
ただ、笑顔を忘れないように、言葉をかけた。
*
貴方がいるから。
今の私は、ここにある。
そして。
旅立つ貴方に『行ってらっしゃい』。
戻る貴方に『お帰りなさい』。
そんな言葉を、貴方にかけられるのだろうか、と。
少し未来の、夢を見る。
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ロクティナ的絡みがほとんどないですね…すみません。
それでも甘めの文章を目指してみたのですが…いかがでしょうか?
是非感想を頂戴できると、嬉しいです。