───人とは、思えなかった。
女神像を思わせる、整った顔立ち。
初めて見る者を魅了する、真珠のような白い肌と、翡翠の髪。
人の持ちうる美しさの、極限。
こんな人間が、この世に存在している、驚き。
目覚めた彼女。
想像以上に深さを持った、翠の瞳。
記憶と感情を失っていたことによる、不安の影。
笑うことも、涙も忘れていた。
共に過ごして、彼女は変わった。
記憶を取り戻し、感情が目覚め。
笑顔と不安と涙を得て、人として成長していき。
生きることと、戦うことを選んで。
───俺も、変わっていった。
無くしていた心。
失って久しい気持ち。
いつの間にか目覚めた感情。
もう、自分にはないと思ったのに。
でも、忘れられなくて。
過去に愛した影は、心に秘められたままで。
それでも、彼女を求める自分が嫌で。
どっちつかずのまま、答えは出せずにいて。
それでも、時が過ぎて。
影は、俺を後押ししてくれた。
過去から届いた言葉が、俺の影を照らしてくれた。
俺は、やっと前に進めた。
───そして、旅が終わる。
命がけの戦いに、終止符が打たれ。
仲間たちが、未来へと歩き出して。
俺は、彼女と生きる道を選び。
彼女は、俺を選んでくれた。
今も、俺は迷う。
彼女の隣にいるのが俺で、良かったのかと。
それでも彼女は、陽だまりのように微笑み。
俺がいることに感謝してくれて。
穏やかな幸せ。
もう、得られないと思っていた居場所。
でも、俺は得ることができた。
あの時、彼女に会えたから。
そう、あれは。
俺と君の、始まりのとき。