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「プレゼント」(オリキャラ有) シスターM

埃をはらって。
不要になったものを、処分して。

「……よし」

最後に、扉を閉ざして。
こことも、おさらば。


   *


持ち帰る必要があるものだけを、選び出して。
チョコボの背に積んでみると、案外少なかったことに驚く。
「まー……当然か」
ここに置いていたのは、最低限度の生活用品とこの付近一帯の遺跡に関する資料のうち、ごく一部。
村の古い一軒家を、この5年ほどずっと借り受けてはいたのだが。
実際にここに泊り込み、調査のための拠点としていたのはうち数ヶ月程で。あまり、思い出もない。
とりあえず、今まで家を借りていた家主に最後の挨拶を、と思って。
さほど離れていない場所の、これまた古い一軒家を訪ねる。
出迎えてくれた家主は、初老の男性だったのだが。あの戦争を無事生き抜いてきた代償か、ずいぶんと老け込んでいた。
笑顔で俺を招き入れ、茶まで出してくれた家主は、ぽつりぽつりと語り始めた。
「お前さんが、あのケフカを倒して世界を救った勇者たちの一人だったとはな……。わしも、とんでもない男に家を貸していたも

んだな」
「あの時の俺は、単なるガキでしたよ」
俺が苦笑混じりに応じると、彼は頷いて続ける。
「そうだな。あの時のお前さんは、とにかく若くて血気盛んだったしな」
「……そうですね」
トレジャーハンターとして有名になろうと、とにかく、前を向いてがむしゃらに走ることで、精一杯だった頃。
今思うと、顔から火が出そうなぐらいに無謀な行動ばかりしていたような気がする。
そんな自分の当時を、少なくとも記憶している人間との会話は、どこか気恥ずかしい。

「それで、お前さんは今、どこに住んでいるんじゃ?」
ふと家主が尋ねてきた。
「確か昔は、コーリンゲンに居を構えている、とか言ってたような記憶があるんじゃが」
「今は違います。モブリズです」
俺が訂正すると、彼は少しだけ目を見開いた。
「確か、大人たちがかつての大災害で全て亡くなった村だと聞いておるぞ。誰が住んでいるんじゃ?」
「……親を失った、子供たちが大勢助け合って、暮らしているんです。そして、若くして子を持ち、親となった夫婦がいます」
賑やかな子供たちの顔を思い浮かべながら、俺が説明すると。
家主は、笑顔になって再び尋ねてきた。
「お前さんの事かね?その夫婦というのは」
その言葉に、俺は慌てて首を振る。不覚にも熱を持った頬を、意識しながら。
「お、俺はまだ子供なんていませんよ!大体もう『若い』なんて言えるような年でもないし」
「……子供はいない、ということは、嫁さんはいるんじゃな?」
慌てる俺の様子に目を細めながら、彼はずばりと核心をついてきて。
俺はうっと言葉に詰まってから。
「……いますよ。嫁さん……と、その……もうすぐ子供も、生まれますから」
頭を掻きながら、肯定した。

ティナに、妊娠の兆候が現れたのは、今年の春。気づいたのは、さすが経験者のカタリーナで。
「間違いないと思うけど、一応お医者様に診ていただいた方がいいと思うわ。ティナは特に」
幻獣と人とのハーフであるという、彼女の身体を案じた言葉に、俺は反対する理由もなく。
悩んだ結果、腕のいい医師にも心当たりがありそうなエドガーに連絡を取ったところ、何故かフィガロ一番の医師と共に、エドガ

ー本人がセッツァーの飛空艇で自ら参上するという、ちょっとした騒ぎとなった。
「私たちのかけがえのない仲間である、ティナの一大事だぞ?まず自分で確かめねば」
「……って、どうしても聞かないんだよ、兄貴がさ。悪いな、急に押しかけちまってさ」
兄を止められなかったという、済まなさそうな表情のマッシュまで引き連れて、押しかけられたのはまあいいとして。
実際、事が事だけに、男が何人いても役には立たないという現実が痛かった。
結局医師の診立ての結果、ティナは間違いなく妊娠3ヶ月頃だと判明。出産予定日は、11月末頃ということになった。
「まずはめでたいことだから、仲間たちにも知らせよう!医師は定期的にこちらから派遣させるし、ティナは余計な事は何も考え

ず、身体を大事にしてくれたまえ」
エドガーは万事手配する、と太鼓判を押して帰って行き。
入れ替わるようにやって来たのは、シド博士を伴ってきたセリスで。
「男手ばっかりあっても頼りないわ!だから、私たちもしばらくここにお世話になろうと思っているの」
「ティナの身体のことならば……わしも少しは役に立てるかもしれんしの」
遠慮がちに申し出た、シド博士の言葉に。ティナはにっこりと、すがしく微笑んで。
「ありがとうございます」
かつての、実父を苦しめた相手に対しても、心からの感謝を伝えていた。

現在ティナは、出産間近の大きくなったお腹を抱えて毎日を過ごしている。
毎日の生活については、セリスや子供たちのサポートで無事こなせているし。
心配されていた身体の不調についても、フィガロの医師やシド博士の配慮によって助けられていた。
そして、俺は今年、この村を含め2、3箇所に点在していたかつての生活拠点を全て引き払い、今後はモブリズに落ち着くことに

決めていた。
全てはティナと、生まれて来る子供のため。
「……そうか、そうか。お前さんも人の親になるんじゃな」
家主は俺の話を、目を細めて聞いていたが。やがて席を立ち、ゆっくりと家の奥へ歩いていくと。
またゆったりとした足取りで、今度は何かの小さな箱を抱えて戻って来た。
「少し早いかもしれんが、子供さんの出産祝いじゃよ。荷物にはならんだろうから、持って行ってくれ」
小さく、でも精巧に作られた箱を開けると、中には可愛らしい乳児用のおもちゃ。
「これは……?」
「──かつての、あの災害で、わしの娘が命を落としたんじゃ……。お腹の子とともにな」
彼は、寂しそうに呟いた。
「生まれて来る孫のためにと買っておいたものじゃが、良かったら持っていってくれんか。きっと、あの子も喜ぶ」
静かな、そして重く響く言葉を、俺は拒めるはずもなく。
「ありがとうございます……子供が成長したら、こちらに伺います」
そう答えるのが、精一杯だった。
彼はにっこりと微笑んで、「ありがとう」と言ってくれた。

夕闇迫る中、チョコボにまたがって、ひた走る道。
開けた視界の向こうに、微かに見えているのはモブリズの村の、明かりで。
少しだけ視界が滲んでくるのを、ぐっと堪える。
やがて世界が闇に覆われる前、俺は家に辿り着き、笑顔のティナたちに迎えられて。
久し振りの賑やかな食卓を、子供たちとの馬鹿騒ぎで過ごしてから。
ティナと2人だけで過ごしていた眠る前のひとときに、彼女にあの箱を手渡した。
そして彼女に、家主の言葉をそのまま告げると。彼女は静かに頷いてから、柔らかく微笑んだ。
「……この贈り物……とても、温かいのね」
ティナは、小さなおもちゃを手の平に乗せて、見つめながら呟く。
「これから生まれて来るこの子にも、きっと伝わるわね。その方が贈り物に込めた、家族への『愛する心』が」
「……うん」
「とても素敵な贈り物、ね。この子は……幸せね」
自分の膨らんだ下腹部を、そっと撫でるティナの表情は、穏やかで。
俺は再び、自分の視界が滲んでくるのを、強引に目を擦ることで誤魔化した。

そんな俺に気づいたらしく、ティナはゆっくりと俺に歩み寄ってくると、そっと抱きついてきて。
「ロック」
そっと囁きかけてくる。
「ん……?」
「ありがとう。それからね、おめでとう」
「え?」
言葉の意味を理解していなかった俺に、彼女は付け足す。
「気づいていなかったの?ほら、時計、変わったでしょう」
彼女の指差す方向に視線を送ると、確かに12時を過ぎていた時計。
「今日は、貴方の誕生日でしょう?忘れていたの?」
その言葉に、やっと思い当たる。
「そっか……忘れてたよ。ティナ、ありがとう」
「後で、皆でお祝いパーティーするつもりだけど……私、一番最初に貴方に言いたかったの。おめでとう、って」
これ以上はないぐらい、柔らかく、愛おしい微笑みのティナが美しくて。
俺は思わず、ぎゅうっとその身体を抱き締めて。
「ロ、ロック……ごめんなさい、少し、きつい」
ティナの慌てた声に、はっとして力を抜くこととなった。

そして。
この日『俺の誕生祝い』のために、久々に仲間たちが集合したところ。
結局その日、ティナの陣痛が予定より早く起こり、全てが後回しとなって。
俺が得た誕生日プレゼントは。
待ちわびていた子の、元気な産声と。
母となったティナの、涙混じりの笑顔だった。

Title
「プレゼント」(オリキャラ有) シスターM
Posted
2006/11/24
Category
ロクティナ・SS

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