まるで、雪のように。
花は、君の周りで。
ひらひらと、舞った。
*
チョコボに跨って、駆け抜ける大地は。
今や絶望から抜け出し、春の息吹を思わせて。
吹く風さえ、心地良い。
そして、俺たちの視界に入ってきたのは、先の戦いにおいて『裁きの光』の災厄から免れた、大木。
「着いたぞ、ティナ」
「……わぁ……」
視界にその木を認めたティナから、珍しく感嘆の声が漏れる。
俺たちはチョコボを降り、手綱を引いて木に近づいた。
白く小さな、無数の花。
枝という枝を埋め尽くさんばかりの、満開の花が。
時折吹く風に揺られ、ひらりひらりと野へ散っていく。
「綺麗ね」
「だろ?俺もこの間帰ってくるとき、偶然に見つけたんだけどさ」
一度は滅びの道を歩んだ、この世界に。
まだこれ程の大木が残っていた事に、驚いて。
しかも、見事な花をつけていたことに、更に驚いたのだ。
だから絶対、ティナをここに連れて来てあげたかった。
彼女が命を賭してまで守ろうとした、この世界は。
こんなにも綺麗だと、教えてあげたくて。
風に誘われるかのように、ちらちらと空へ散っていく花弁。
ティナの瞳が、風に遊ぶ花弁を追いかける。
「……雪、みたい」
彼女は一言呟くと、その手を伸ばして、ちょうどこちらへ流れてきた花弁を掴もうとした。
しかし、気紛れな風にさらわれて、花弁はティナの手から逃げる。
「あ……」
そのティナの声は、どこか悲しげで。
行き場をなくした華奢な手が、ゆっくりと戻されていく。
まるで。風の中で、踊るように。
何かに衝かれるかのように、華奢な手を掴んだ。
「……ロック?」
俺の突然の行動に、怪訝な表情を浮かべるティナ。
そのティナの周囲を、風に乗ってやって来た花弁が舞う。
ふわふわと、波に漂うかのように。
くるくると、空をたゆたうかのように。
真っ白な花弁は、解けることのない雪にも似て。
俺の目からも、誰の目からも、彼女を覆い隠してしまうようで。
怖くなって。
ぎゅっと目を閉じて、俺はティナの体を引き寄せた。
「ロック!?」
ティナの戸惑いを含んだ叫びを、完全に無視して。
華奢な体を腕の中に閉じ込めて、きつくきつく抱き締める。
降るな。
花弁なんて、もう。
俺の目を、欺こうとしないで。
「……ロック……?」
ティナの怪訝そうな声が、耳にはしっかり届いていたけれど。
今はただ、手を離す事が怖くて。
俺はじっと、震える心を抱えたままに、ティナをぎゅっと抱き締めていた。
*
春の雪。
君を魅了した、融けない雪。
俺を惑わせた、融けない雪。
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久々の文章投稿ですが…春をお題にしたはずなのに、何故かロックがやけに病んでます(汗)。
ラブラブを目指したはずなのに、そこはかとなく仄暗いです。
ちなみにイメージした花は桜ではなく、ウツギです。
どこまで天邪鬼なんだ自分…。