魂を蘇らせる、伝説の秘宝。
ずっと、それだけを探していた。
大切な人を、もう一度蘇らせたいから。もう一度、会いたいから。
ただ、それだけで。
レイチェルは、優しい心のままに、俺を癒してくれた。前に進むことを教えてくれた。
俺は、彼女にさよならを言えた。ありがとう、心からそう思えた。
俺を待っていてくれた、セリスがいて。仲間たちがいて。
「俺はもう、大丈夫だ」
やっと言えた。レイチェルの心と、そしてフェニックスの魔石とともに。
＊
「ティナ、こいつを預かってくれ」
俺はティナに、魔石を託した。特に理由はなかったけど。
久々に語らう仲間たち。みんな世界の崩壊後、何かしら苦労していて。でも、苦しみなが
ら乗り越えていて。俺を昔どおり、そのまま受け入れてくれて。
また、戦おうと思った。みんなと共に。世界を…自分の未来を、大切なものを守るため。
お互いの情報交換も終わり、みんな自分の部屋へと戻った。
俺もあてがわれた部屋に行こうとしたが、どうしてもティナが気になった。
さっき教えられていた、彼女の部屋の前に立つ。そっとノックをして声をかける。
「ティナ、入っていい？」
「…ごめんなさい、もう、眠く、て……明日にしてもらって、いい？」
扉越しに届く声は、確かに眠そうで。でも、違う。これは…
「どうしたんだ！？入るぞ」
扉の中は、明かりもない暗がり。ベッドに横たわるティナ。
「ティナ！」
慌てて駆け寄り、明かりを点す。顔色が悪い。元々白い肌が、紙のように色を失っている。
全身が、氷のように冷え切っていた。
「しっかりしろよ、今誰か呼んで…」
俺は急いで仲間に知らせようとした。だけど、ティナの悲痛な声が俺の動きを止めた。
「駄目！お願い、大丈夫だから…眠らせて」
しかしこの様子はただ事じゃない。身体が小刻みに震えていて、激しく体力を消耗してい
た。この短時間に、しかも飛空艇の中で？…尋常ではない、何かあったに違いない。
それでも、ティナは辛いと言わない。絶対に、苦しさを訴えない。
「でも…」
「本当に、平気よ。ちょっとだけ、疲れたの。だから、ロックも戻って。フェニックスと
一緒に」
ティナの視線の先には、フェニックスの光。ティナを守るように輝いて。
俺は無言で、それを服のポケットに押し込んだ。
「じゃ、ロック、おやすみなさい」
ティナは、優しい微笑を見せた。それは暖かくて、自然な笑み。モブリズで過ごしていた
時が、彼女にこんなに柔らかい表情を与えていたのか。
でも、彼女は変わっていない。全てを自分で抱え込み、誰かにすがる術も持たない。
「ロック？」怪訝そうな表情のティナ。
「ティナが眠るまで、ここにいる」
俺は、ベッド脇に椅子を持ってきて腰掛けた。そっとティナに毛布をかけて、髪の乱れを
直してやる。さらさら、綺麗な翠の髪が草原のように輝く。ティナの表情は、静かなまま
で。俺の手の動きを、ただ目で追っている。
「ティナ、大丈夫か？何か飲むか？」俺はそっと語りかける。
「大丈夫よ、本当に。だから、ロックももう戻って。セリスやみんなと、話すこともある
でしょう」
また、彼女は繰り返す。人に頼ることを知らないまま。
「いいや、俺はここにいる。君が邪魔じゃないんならね」
俺はきっぱりと告げた。今離れちゃいけない、そう感じた。
「じゃあロック、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ティナは、言葉と共にそっと瞼を閉じた。たちまち睡魔に攫われたらしく、静かな寝息が
聞こえてきた。俺はそのまま、眠る彼女を眺めていた。
＊
「…ティナ、何があったんだ？」
俺は、ポケットから魔石を取り出す。レイチェルの優しさのままに、光を取り戻したフェ
ニックス。その光は今も、柔らかく輝くけれど。俺に、石の言葉は聞こえない。
「なぁ、フェニックス…教えてくれよ」
呟いても、答えはない。わかっているけど、問わずにはいられない。
ティナは教えてくれないから。どんなに傷ついていても、辛くても。一人で乗り越えてし
まうから。
彼女は強い。…そして、悲しい。
御伽噺のように、儚く美しい彼女。でも、物語ならば。苦しいと、訴えて。助けを誰かに
求めるだろう。
君は、それを絶対にしない。だって、君の心は強い。そして頼ることを知らない。
だけど、俺には切なくて。守れないのが、悲しくなる。
傍にいるのに。見ているのに。
…こんな気持ちは、彼女にだけで。他の仲間には感じないのに。
何故なのか、その理由を知る前に。俺は、また戦いに戻っていく。
彼女の心を知らぬまま。