君を初めて見た時は、息が止まるかと思ったんだ。
綺麗な君、だけれど其れ以上の強い気持ちが俺を突き動かしたんだ。
彼女が死んで仕舞って、俺はもう二度と恋をしないと思った。二度と。
彼女が俺の心に巣食って、もう何者の入る隙間も有りはしなかった。
彼女に会いたかった、声を聞きたくて仕方なかった、彼女に触れて、抱き締めたかった。
満ち足りて居た此の世界は俺にはもう唯、酷くがらんどうに思えて
寂しくて、苦しくて、息も出来ず、もう何も耳に入らなくて俺は唯ひたすらに
俺は彼女に会おうとした
其れは罪悪感からでも何でも無く、唯、一心に彼女に会いたかったから
彼女にどうしても、言いたかったから
何よりも愛して居たんだって
君に出逢ったのは暗いナルシェの洞穴の中だった。反乱軍の「魔導の少女を手に入れろ」という命の元。
初めて逢った頃の君はとても不安定で、記憶も一時的に無くして仕舞って居た。
俺は上の命令通り、何かと君に気をかけた
君を反乱軍へ加わるよう説得するために
あんな戦いの毎日の中でも、君はまるで生まれたての様に、ありとあらゆるものを素直に受け止め
素直に喜び、素直に哀しみ、素直に前へと進もうとした、強く、真っ直ぐに。
俺にはまるで其れが尊く見えたんだ
彼女を無くして唯卑屈に生きて来た俺に君は、俺が君に教えたこと以上に何かを教えてくれたんだ
そんな君にもたった一つ受け入れられぬものが有った。
帝国での殺人兵器としての過去
其れは君が唯一克服する事の出来ない過去の闇だった。
いつも皆に優しく振舞う君、でもいつも何処かで痛みを堪えて居た
まるで自分を思い出させた。
…俺達は、ほんの少し、似て居るのかも知れない。
「Heaven」 -黒猫ナナ
或る夜、テントの外へ出てみると独りティナは草むらに座り星空を眺めて居た。
「どうしたんだ?眠れないのか?」
「ロック…」
ティナは時々こうやって、夜になると独り遠い処を見つめて居た。まるで何かに語り掛けるように、遠くに見えないものを果てしなく追いかけるかのように…縋るように彼女は唯空を見つめて居た。
「綺麗ね、星。」
冬の今、空は漆黒に染まり、闇をぬってまばゆく輝く宝石のような星々が幾つも、幾つも散らばって居た。
そんな空を見つめながらティナはぽつりと言った。
「昔、誰かに聞いたの。星って、死んだ人々の魂なんだって」
「へぇ。そうなんだ?」ティナが何を考えてるのかまだ掴めなくて、俺の口から出たのはまるで素っ気の無い返事だけだった。
そうしてまた暫く空を見つめて居るとティナが口を開いた。
「ねえロック…」
「私がまだ帝国に居た頃…本当は…本当はね、魔導アーマーの上から見えて居たの。逃げ惑う人々や、炎、泣き叫ぶ人々…。本当は全部見えて居たの。でも其れを考える度に、私は操りの輪の所為で動けなかったのか、其れとも唯恐くて動けなかったのか判らなくなって…酷く恐いの!」
一体突然何を言い出すのかと驚いて耳を傾けたティナの透明な声は、少しか細く掠れて居た。其れでもティナの告白は残酷に、漆黒の闇にこだました。
「もし本当は…動けたのならどうして攻撃する此の手を止めなったのか、其れを考える度に、恐くて、恐くなって」
そう云って、少し俯いた。
「ティナ…」
「星を見て居ると何だか、私の所為で死んで仕舞った人々が私を空から見つめて居るようで…私を責めて居るようで。…いつも、こうしてごめんなさいって言うけれど…本当の処はどうすれば良いのか解らないの…。こんな私に皆と戦う資格が有るのか…時々恐くなって仕舞うの」
小さく、うずくまるティナ。昼間の素直さや優しさ、芯の強さがまるで嘘のように、唯何か儚く脆いもので出来て居るかのように、彼女は唯頼りなく自分を抱えて居た。過去と云う亡霊に、囚われた彼女。
人は強い過去に囚われた時、何も見えなくなる。
今を、大事な事を、本当に本当に大切なものを見失いそうになって仕舞う。
痛い程、其の気持ちを知って居た。
心臓を縛り付ける、其の哀しい程に強い思いを。
「…ティナ、顔をあげてご覧」
「嫌…見ないでっ、恐いの…っ。」
そっと、肩を抱くとティナの冷たい肩は、少しだけ、震えて居た。
「大丈夫、俺が横に居るから。目を開けて、空を見てご覧」
ティナは恐る恐る目を開けて、空を見つめた。
「… ティナ、星は、空から俺達を見守って居るんだ。此の世界を、人々を、新しい命を。昼間は日の光で俺達は歩み続けられるから見えないけれど、夜になると誰でも…迷うものなんだ。真っ暗で何も見えなくなるからな。そんな時に…俺達が迷わないように、星は其処に居てくれるんだ。」
「私達が迷わないように?」
「そうさ。暗闇の中で俺達が迷わないよう、道標として俺達を導いてくれて居るんだ。例え遠く手は届かなくても…触れられなくても…感じられる。」
「本当…?」
「ああ。俺達を責める為に居るんじゃない。俺達が前に進めるように…其処に居てくれるのさ」
「…そうだったんだ…」
そう言ってまた、二人とも口を噤んで、静かになった。俺達はただ其処で座っていつまでもいつまでも星を眺めた。
其の時、一筋の輝く雫が空を流れ落ちた。
『流れ星!』
同時に呟いたお互いを見て少し微笑った。
「ティナの願い事は?」
少し照れた顔で、空を向いてティナは言った。
「うんと、ね…今はまだ解らないけれど本当の意味で強くなって…いつか私の大切な人を、守れますようにって。」
「ロックは何をお願いしたの?」
「んー…秘密!」
「そろそろ明日に備えて寝ようか。テントに戻ろう」
そう言って立ち上がり、横を見るとティナはまだ星空を見つめて居た。
其の姿がまるで星空に溶け込むかのように酷く綺麗に見えた。
まるで時が止まったようだった。
「…ティナ?」
「…知らなかった。星の光って…こんなにも優しかったのね。」
そう言って彼女は微笑んだ。
「ありがとう、ロック。」
ほんの少し、似ている俺達。すごく、似ている俺達。
でも一番似てるのは…
流れ星にかけた願いなんだ。
*********************************************************
何年か前の作品です。御免なさい、以前自分のサイトのロクティナ部屋(現在こちらの部屋は大改装の為一時的に閉鎖して居ます)で一度発表して居ます。
世界崩壊か、世界崩壊前か特にそういった設定はなくて、何だかずっと日常的なお話、でも少しずつ二人寄り添い心が通って行くその過程のちょっとしたお話のつもりで書いたものです。
ティナって、いつも怖いんじゃないかなぁって思います。彼女の犯した、彼女自身のものではない、でも彼女自身のものである罪、そして罰が酷く恐ろしいんじゃないかなぁって。だから、本当はずっとずっと弱い彼女を守る人が居て欲しい。ロックが、優しく包み込んで、守ってくれたらいいなぁって、いつもこっそり願ったりして居ます。
小説は絵以上に下手なのですが、お目汚しを覚悟で失礼します(>_<)