見ないで、と。
君が言う。
君が泣く。
だから。
僕は、近づく。
*
昔、何かの折にエドガーが、戯言めいた口調で。
「泣き顔も美しい人は、まさに最高の美女だよ、ロック」
誰かの面影を追っていたのか、目を細めて虚空を見つめて。
一度だけ、漏らしていた。
あのときは、全く信じようとしなかったけれど。
ああ、確かに、と。
今の俺ならば、納得するに違いない。
何故かといえば、理由はひとつ。
翡翠の瞳から流れ落ちる水晶の雫は、確かに、綺麗だから。
声を潜めて、誰にも知られないように嗚咽も殺して。
ベッドに深く顔を埋めて、細い肩を震わせている姿なんて。
偶然部屋を訪ねていなければ、目にしていなかった。
きっと、彼女も見せるつもりではなくて。
「!!」
声を詰まらせ、引き攣った喉元すら、白く細く。
小刻みに全身を震わせて、怯えきった小動物のように。
今にも、逃げてしまいそう。
無意識に手を伸ばし、捕まえる。
剛剣を軽々と振るい、身の丈程もあるような火球を生み出すのに。
彼女の手は、あまりにも細く白く、小さくて。
戦いで負った無数の痕が、痛々しくて。
労わるように、唇を掌にも手の甲にも強引に押しつける。
震えが治まったと思ったら、瞳からは絶え間なく溢れる雫。
白い頬を伝い、一瞬だけ光を掴んで。
音もなく、消えていく。
あれは、君の、心?
これ以上、涙を見ていられなくて。
腕の中に捕らえ、自分の胸に押し付けた体は、やっぱり細くて。
どうか、このまま消えていかないでと。
抱き締める腕に力を込めて、それだけを祈った。
*
僕は。
君の流した涙ごと。
君の全部を、捕まえる。
だから。
君は、そこにいて。
───
「雨」から「しずく」になり、「涙」へお題が変化した駄文です。
ゾゾで覚醒し、仲間と合流した直後ぐらいを想定しています。
記憶の混乱や、急激な覚醒で怯えるティナを、支えてやれる度量の
あるロックは理想なのですが…。すみません。